パーソナルゲノムの時代に向けて、起業家群像、次世代シークエンサー開発史、データ解析と医学分野との関係を紹介

　パーソナルゲノムの時代に向けて、
アメリカなどで展開されてきた、
人のゲノム解析に関わる企業やその起業者たちの話を中心として、
さらに医学分野との関係の事例なども紹介した本です。
本のタイトルの意味は、
1人の人のゲノム全体の解析コストが1000ドル以下になれば、
個人のゲノム解析が飛躍的に普及するであろうという見通しにかけたものです。
次世代シークエンサーの開発、
ゲノムデータの解析と医学分野との連携(各遺伝子の医学研究データの蓄積、
解釈、
アップデートなども含めて)、
消費者側との接点になる企業、
といった様々な分野の話が出てきます。
生物学の基礎的な知識またはゲノム解析の分野の知識がある程度ある方ならば、
読みやすいだろうと思います。

　いろいろな人の話、
意見を取り入れて紹介しており、
書き方として、
人の紹介などもある点で、
具体的なイメージがわいてくる点は長所です。
著者がNature Genetics誌の最初のエディターだったということで、
科学畑の相手からは話を訊くための信頼は得やすかったと考えられます。
そのことが、
内容上、
少し研究者寄りの立場だとは思いますが、
比較的バランスを良くする方向に効いていると思います。
原書は2010年に出版されており、
進展の著しいこの分野では、
ごく近年の情報が欠落していることになります。
しかし、
日本語版出版に際して、
ポイント的にですが、
2014年1月頃までの情報を補足的につけており、
この点も本書(日本語版)の長所となっています。

　本の構成として、
章ごとのテーマで、
章は大きくは歴史的な流れの順になっています。
1つの章だけである内容が完結するわけではなく、
本書の各所で内容がオーバーラップしている部分もあり、
その点では、
もう少し整理してくれると、
より読みやすいだろうと思いました。
もっともこの点は、
体系的な羅列にしてしまうよりも、
実際の物事の流れに沿っていろいろな人の話や意見を紹介することで、
具体的なイメージを持ちやすくなっていることとのトレードオフかもしれません。
本書の各所で何回か登場するような人物は、
名前だけでは憶えておけないところですが、
索引がついているので、
見直すこともできます。
また、
引用の情報もしっかりとついています。