原型としての人間

邦訳を読んでいて、
是非とも原著をと思って、
購入した。

　人間が生まれ、
生き、
死ぬ、
という運命を免れ得ない限り、
キャンベルが見出した原型としての人間の像を逸脱することはありえいないと思える。
この本でキャンベルが試みたことは、
錯綜し、
混沌となり、
荒ぶれる人間の経験の諸相を、
一つの人間像に凝縮することである。
それは、
歴史の根底にある、
存在論としての神話学といえるのではと思った。

　彼の中にアメリカン・ドリームやアメリカングローバリズムがないとはいえないとしても、
である。


　なぜ人間は物語るのか。
この本を読んでいて、
二つ思ったことがある。

一つは、
人間が死ぬ、
という紛れも無い現実への、
たったひとつの方策としての物語。
人間は死ぬということによって、
これまでのすべての経験が、
虚しく意味のない索漠としたものに変化する。
一切の有意義なものが奪われる。
人間の存在意味が空無にさらされる。
自らをつないでいた紐帯が解け、
散乱し、
無意味な断片の塊と化す。
物語は、
その無意味な存在に意味と意義を与え、
人間を意味あらしめるものとする。
キャンベルは、
そうした物語の意味を掴んでいるように思える。

　もう一つは、
人間が直面する課題、
人間関係のトラブル、
親子の相克、
男女の軋轢、
兄弟の闘争。
、
自然の来襲や巨大な災厄。
そんなものにいかに対応し、
いかに心理的な癒しと、
解決策を見出すか、
そのためのツールとして物語が作られたのだと実感した。


　この本は邦訳以上にたくさんの写真(邦訳のものよりはるかに綺麗だ！）を追加し、
本を読む喜びとものを考える深みを味わわせてくれる。