久々の山本文緒節に考えさせられる…

作者が長い断筆期間に入る前に、
彼女の本はすべて読んでおり、
新刊が出たら必ず買うぐらいの山本文緒ファンでした。

ただ、
この「なぎさ」は１か月ぐらい、
購入をためらっていました。

帯に書いてあった筋がすこし陳腐な気がして（ブラック企業勤めの夫、
カフェを始める妻姉妹）、
読んでみて、
まだ、
山本氏が本調子に戻っていないのだと思わされるのは辛いなあと感じたからでした。

しかし、
それは杞憂でした。

そして、
久しぶりに彼女の小説を読んでみて、
やはり、
私にとって、
同時代でこれほどに人の気持ちに深く潜り込んだ話を書ける著者は他に知らないなあ、
という気持ちになりました。
懐かしい山本文緒節とでもいうような、
不穏な雰囲気を醸し出しながら、
その一番の原因は終盤になるまで伏されているというミステリー的は構成もさることながら、
人物一人ひとりの描写もとても良かったです。

この本には、
悪魔のような人も、
どうしようもなくいい加減な人も出てきて、
山本氏らしく人の暗部をえぐるような話もあるけれど、
同時に素敵な人達（例：所さん、
紅ジャケ君、
川崎君のお兄さんの奥さん）もいて救われる。
そして、
川崎君から見た佐々井夫妻の「あの二人も労を厭わない人達だった」という感想に、
なんだか感動しました。

　基本的に、
人が関わりあって生きていくことの大事さを書いている本です。
そして、
とても丁寧に、
多分、
数えきれないほど遂行を重ねてできた本だと思います。