『嘘』と言うよりも『名画』本来の主題や歴史的背景・エピソード.

本書のタイトルは『嘘をつく』とあって、
一般に知られた『名画』自体における何らかの（故意に）“隠された”真実や意義の存在を示唆する印象を受けるが、
実質的には右『嘘』とは『名画』に関する後世の人間（殊に日本人）の評価・解釈・画題についての誤解や価値観の齟齬、
流通プロセスにおける『名画』主題の変遷を指すものであり、
『名画』自体ないし作者が何らかの『嘘』を故意に表現・内包させていると言う意味はないと言って良い（「はじめに」参照：但し一部のトピックでは作者の意図的又は自然な作為的表現を取り上げているものもある）。
多くは『名画』本来の表現テーマや本来的意義の解説であり、
後世の人間に依る評価の誤解・価値観の齟齬がトピックの多くを占めるという構成ではない。
私見では、
タイトルに類するまたは右後者のコンセプトにある『名画』の代表としては、
『夜警』（レンブラント）、
『民衆を導く自由の女神』（ドラクロワ）、
『アヴィニョンの娘たち』（ピカソ）、
『鉄道』（マネ）、
『シャルパンティエ夫人と子どもたち』（ルノワール）、
『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』（ルノワール）、
『ライオンの食事』（ルソー）など、
主として前半（第４章）辺りまでに多く、
その余は『名画』の本来の表現、
歴史的背景、
トリビアなエピソードと言うべきだろう。
かかる点からすると、
タイトルは多少誇張気味の印象があるが、
評価されていない事情や作者本来の表現意図という点では、
『名画』に内在する隠れた事実とも言える。
そうした意味では興味深いトピックが多く、
文庫サイズで本文約２３０ページ強、
オールカラーで税別７４０円は決して悪くはない。