「西安事件」の主役だった「張学良」の伝記

かつて中国東北（満州）を支配し日本の関東軍に爆殺された張作霖将軍の子息であり、
1936年末蒋介石を拘束して国共内戦停止と抗日共同行動を迫った「西安事件」の主役だった「張学良」の伝記である。
張学良は西安事件後蒋介石に監禁されて以降現代史の表舞台から姿を消し、
1990年NHK番組に取上げられてその映像が世界に衝撃を与えるが、
2000年に100歳で亡くなった。

著者は1990年以降日本人としてたった一人取材を許された女流作家である。

本書は張学良の関係する女性別の章立てになっているが、
主たる章は最初の妻「于鳳至」（第二章）、
秘書から最後の妻となった「趙一荻」（第五章）である。
このほかの女性とも同時平行して関係が続く。
従って、
張学良と家族にとって大きな出来事である1933年のヨーロッパ旅行は上記二つの章の他、
ムッソリーニの娘でイタリー公使夫人エッダの章（第四章）にも重複記載される。
張学良の伝記として全体的に年を追った記述になっていない。
最大の「西安事件」についても軍事裁判の内容など詳細は蒋介石夫人「宋美齢」（第六章）に出てくるのでそれまで分らずもどかしい思いをする。
しかし本書の表題・副題を見ると、
いかにも張学良と宋美齢との恋愛関係が存在し、
それが現代史を揺り動かしたように見えるが、
第六章の末尾に著者が「宋美齢が張学良への愛を自筆で記したり、
口述した記録は残されていない」と記すように、
本書に書かれた内容からは、
二人に恋愛関係は感じられない。
あるとすれば相互尊敬の念であろうか。

ともあれ、
近代日本の大陸侵略の歴史に関係深い人物、
張学良の生涯を知ることができて、
興味深い。