吉村版は吉村版、増村版は増村版でいい

　吉村公三郎の『暖流』は傑作の誉れ高く、
それゆえリメイクは大変難しい。
そのことは『増村保造の世界ー「映像のマエストロ」映画との格闘の記録　1947-1986』にも書いてある。

　そんななか増村版を見たのだが、
これはこれでいい、
というのが私の評価である。
舞台設定が戦後になり、
野添ひとみが普通のお嬢様役に変わっているので、
現代人にもとっかかりやすい。
そして何といっても、
左幸子のぎん役の生命力の強さがいい。
特に「いつも笑っているのはなぜか」との問いに、
ぎんは「疎開中に両親を亡くし、
その時涙を出し切ってしまったのか、
それから笑うしかいられなくなってしまっんです。
」、
といった感じで笑いながら答えたところが印象的である。

　この生命力の強さ、
粘り強さ、
忍耐力が現代人に欠けているのではないだろうか。
私自身も恥ずかしながら、
仕事でくじけそうになった時、
左幸子を思い浮かべ「まだまだ」と自分を奮い立たせている。