簡潔かつまるくなってしまったテキスト

月毎に発刊されていた放送用テキストは知的刺激と知恵に満ちあふれていた。
著者の並々ならぬ力量に魅せられ、
既刊の成書を手にしてみたが、
実はどれもこの放送用テキストにかなわないと感じられるのだった。
なので、
これらテキストが合本され刊行される日を待ち続けてきた。
待望の本書を手にしての第一印象はというと、
内容的にかなり大きく割愛されている、
冒険的挑戦的な用語も陰をひそめている、
というものだ。
紙幅の制約があるのはやむをえない。
記述を切り詰めるのは、
著者としても断腸の思いだったにちがいない。
もちろん簡潔にまとめられたことの利点を頭から否定するものではない。
けれどもやはり放送用テキストのもつ、
あの、
ちょっととんがったような用語の導入、
そして見事なまでに整然とした(しかも実践的な)論の体系的展開といった魅力は、
単行本化と引き替えに捨てるにはあまりに惜しいものだった。
分量と価格とが倍になってもよかったから、
説明文すべてをオリジナルそのままにそっくり保存してほしかった。
非難ではなく、
残念至極の気持ちをこめて、
星をひとつ減らさせていただく。
紙質悪く表紙のうすい放送用テキストのバックナンバーの価値がますますもって高くなった。