これほど気楽に楽しめる司馬作品は無い！

調査に調査を重ね、
名うての歴史学者をも凌駕する程の精緻さで書き込んだ大長編「坂の上の雲」と同時期に書かれたこの「妖怪」を比較し、
史実と言う価値判断だけでこの作品をこき下す評論者が多いと聞きますが、
それはあまりにも理不尽な評価と言わざるを得ません。
あの、
中世も煮詰まり、
どろどろとした動物欲が人々の心の中に頭をもたげて爆発せんとした非理性の時代に、
詳しくまた興味深い記録など望みようがないのでしょう、
さすがの司馬先生も精緻な史実構成をあきらめると同時に「幻想小説家-司馬遼太郎」の真骨頂をこの作品に凝縮して下さったようです。
全編を彩る幻想・幻術の数々は遠い中世末期の時代気分を的確に表現するとともに読者を引き入れて離さない官能的興奮と背中合わせの夢の世界に誘われ、
読む者は誰しも本巻385ページを一気読みで堪能すること請け合いです！！