学問的

　実朝も魯迅もよく知らないので、
物語というより学問として読んでいる気分だった。
たしかに側近が手記として書いたという記録的な淡々とした印象がある。

　「右大臣実朝」は引用部分が難しく、
声に出しながら勉強のようにして読んだ。
この時代は地震が大変多かったようで、
現代からみても他人事ではない気がした。

　将軍ながら歌人の達人でもあった実朝がおなじく歌人の鴨長明と謁見し、
和歌に対して注進されている場面がとても興味深かった。

　「名声は禁欲よりもやり切れぬ」に反して実朝が官位におぼれていく節もあり、
名誉と孤独のはざまという人物像に太宰が惹かれたのだろうか。

　「惜別」の魯迅の科白は太宰の思想そのもののように思われるが、
後半に文学論がぶちまかれ、
作家としての姿を見た思いだった。

　二編は今まで読んできた太宰の小説とはやや雰囲気が異なるような、
学問的で固い印象が感じられたが、
知的な中にも太宰の熱意は伝わってきた。