ごまかしのないリアルな描写が圧倒的

最初に断っておきます。
この作品は“ハダカ目当て”だけでは買わない方がいいでしょう。
AVと見紛うような部類の映画ではないのです。


2本撮りで製作された映画『フィギュアなあなた』と『甘い鞭』は《光と影》《明と暗》の関係ではないだろうか。

本作は前作から一転してダークなエロス表現に振り切って作られている。
石井隆ワールドの振り幅の大きさ、
奥深さを改めて思い知らされた。


表現コードがどんどん厳しくなって行く昨今の映画界において、
今できる極限のリアル表現に挑めるのは石井隆しかいない。

今や現代のエロス神として君臨する壇蜜のイメージを徹底的に壊した先に、
テレビの中の彼女には微塵もない狂気を引き出してみせる。

白い肌に容赦なく打ち込まれる鞭、
食い込む縄。
ごまかしのないリアルな描写に圧倒されるほかない。


17歳の少女が1ヵ月間、
地下室に拉致監禁され、
心も体もズタズタになるほど蹂躙されてしまった先に残る心の闇。

それは不幸の極致を味わった人間にしか理解できないもの。

流血どころか喫煙シーンすら流せなくなったテレビを見て、
予定調和の平和や安寧を信じる人や、

インターネットでどんな情報でも知ることができると信じる人には、
このようなストーリーにリアリティは感じられないであろう。

それでも、
世の中から目を背けられ謂れのない偏見や罪や罰を背負わされる人たちの苦悩をあえて表現しようとする作家魂。

原作者・大石圭と脚本監督・石井隆、
そして二人の鬼才が紡いだイメージを体を張って具現化した壇蜜、
間宮夕貴に拍手を贈りたい！

さて「ディレクターズ・ロングバージョン」やAmazon限定特典の感想も述べておこう。

まずは劇場版から25分追加された「ディレクターズ・ロングバージョン」。
大きな追加シーンは3つだろうか。

ノーカットになった壇蜜のバスルームでのオナニーシーン。
石井隆の映画はいつもバスルームで何かが覚醒する。
雨のように降り注ぐシャワーが途切れるまで果てしなく続く指の戯れ。
壇蜜がその覚醒を遥かに呑み込むほどの狂気を見せてしまった。