織田信長 <天下人>の実像 (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトル織田信長 <天下人>の実像 (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者金子 拓
販売元講談社
JANコード9784062882781
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

私たちの常識を覆す面白い内容がかかれていますが、帯に書いてある「天皇は織田将軍を望んだ」というセンセーショナルな部分は、データに裏付けられた他の内容に較べて、「類推」の域を出ていないような気がします。そういう意味では、ちょっと期待外れです。しかし、一般に流布している「歴史」が、単なる「物語」であったり「勝者の作り話」であるという「事実・現実」を再確認できる内容でした。司馬遼太郎やシェークスピアの歴史物語を「歴史」だと勘違いしている方には、目を覚ます薬になるでしょう。

織田信長といえば、中世の因習、常識を打ち破り、近世を切り開くという歴史的大転換を成し遂げた人物と見做されてきたが、この通説に真っ向から異論を唱える書が現れた。『織田信長<天下人>の実像』(金子拓著、講談社現代新書)がそれである。

著者は、信長が目指したのは、天下統一ではなく、「天下静謐」であった、しかも、この「天下静謐」は京とその周辺の畿内に限定されたものであったというのである。信長は、天皇や足利将軍の権威を認めず、それを奪おうとしたのではなく、天皇、足利将軍から「天下静謐」を委任されたという自覚のもと、その目的を果たすべく邁進したというのだ。

「信長は戦国時代の室町将軍を中心とした枠組みのなかで、『天下』という領域の平和と秩序を維持すべき将軍を支える存在として登場したのである。このような戦国時代において室町将軍が維持すべき『天下』の平和状態を、のちに(足利)義昭や信長自身も発給文書のなかで用いる言葉である『天下静謐』と呼びたい。これこそ信長がもっとも重視した政治理念(大義名分)であった。信長は天下静謐(を維持すること)をみずからの使命とした。当初はその責任をもつ将軍義昭のために協力し、義昭がこれを怠ると強く叱責した。また対立の結果として義昭を『天下』から追放したあとは、自分自身がそれを担う存在であることを自覚し、その大義名分を掲げ、天下静謐を乱すと判断した敵対勢力の掃討に力を注いだ。・・・おなじ天下人でも、信長と(羽柴)秀吉には大きなちがいがある。信長の使命は、羽柴秀吉が突き進んだ全国統一という道とは別物であるということだ。全国統一とは、もっぱら征服欲にもとづく領土拡張の結果である。・・・(信長の場合は)征服欲とは別に、天下静謐を維持するという目的での他領攻撃があり、その結果としての支配領域拡張があったと考えるべきである」。

「近年では、史料の整理と公開が進み、そのうえで史料研究が深化したことにより、これまでには用いられてこなかった多くの関係史料が見いだされるに至った。そうした史料の紹介検討を含め、史料の整合的な解釈から立ち上げた実証的研究のなかから、信長と天皇・朝廷は対立ではなく、むしろ協調的関係にあったという議論が提起され、いまや対立説を一掃せんとする勢いがある」。

織田信長の政治スタンスは90年代初期の「三職推任問題」提示以降、近世史で最も熱いトピックの一つだ。本書では、信長と朝廷との関係、信長の目指したものを、同時代の史料から検討する。信長と朝廷との関係は、史料がかなりあるものの、良好だったのか緊張していたのか、どちらの説も支持する人がいる。今も学界で意見が分かれているが、著者は信長による日本統一を否定した上で「朝廷と協調関係にあり、将軍に推任された」と主張する。

「将軍を追放し、叡山も焼き討ちした信長なら、権威の零落した朝廷を歯牙にもかけないだろう。正倉院の香木・蘭奢待を切り取り、京都で軍事パレード(馬揃え)するほどだから」と私は思っていたが、本書によると朝廷を重んじていたという。朝廷が混乱した際には天皇を叱責する一方で、伊勢遷宮の寄付願いでは、「見積より増えるものだから」と要請額の3倍を出すなど、朝廷の権威維持にも力を入れていた。朝廷関係の揉め事では先例から判断し、蘭奢待切り取りも「畿内の守護者」という圧倒的強さを示す目的だったとしている。

なぜ信長は朝廷の権威を守ろうとしたのか。著者は最重要なキーワードとして「天下静謐」を挙げる。「天下静謐」とは朝廷を含む京都・畿内の平和である。室町幕府は天下静謐を軍事的に保障する義務があり、信長も当初、足利義昭に協力していた。義昭と対立し、追放したあとは自身がこの使命を引き受け、敵対勢力を掃討した。天下静謐は信長の軍事力も重要だが、朝廷の政治的安定も欠かせない。天下静謐を支えることが天下人の責務だと考えていた信長は、軍事力で畿内安定に全力を注ぎつつ、天皇と協調し、朝廷への経済的支援を惜しまなかった。

ジャーナリズム路線が強い最近の現代新書にしては珍しい、先行研究の批判あり原文添付ありのガッチガチな研究書。当初メチエでリリースする予定だったというのもうなずける。一読してさっぱりわからず放り出し、あちこち読み返してようやく理解した。日本史研究書のスタイルに慣れていない人は、とにかく序章の「信長の政治理念」を理解するまで読めば、本書の全体像がなんとなく見える。本書は序章に立てた仮説の実証という形で進められているためだ。

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