「弱肉強食」の大学論 生き残る大学、消える大学 (朝日新書) の感想

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タイトル「弱肉強食」の大学論 生き残る大学、消える大学 (朝日新書)
発売日販売日未定
製作者諸星 裕
販売元朝日新聞出版
JANコード9784022735751
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 教育学 » 一般

購入者の感想

 本書は、いま文科省が、あるいは独法化した国立大学をはじめとした全国大学が推進している大学改革をテーマに議論した対談集である。大学のミッション(使命:いかなる大学であるのか、あるいはいかなる人材を育成するのか、などといった大学の根本理念)がはじめにあって、それに基づいてカリキュラムがあり、シラバスがあり、実際の講義があり、学生の成績の評価があり、これらの積み重ねによって、卒業時に完成品としての卒業生が社会に出ていく。このような至極真っ当な教育論には露ほどの異論はない。また、グローバル時代の産業界の要請にこたえる人材を育成するという大学の使命も一面においては理解できる。たしかに公務員にしろ私企業のサラリーマンにしろ起業家にしろ、そのような人材を育成することが大学の存在価値の一つであり、と同時に大学の社会貢献であることは十分理解できる。その点においては、本書は、たとえば、かつてあったような大学解体という絵空事としか思えない(むろん当人たちがいかに誠実であり真摯だったとしても、歴史的なプロセスから見れば、大学が近代において持っていた自由の府としての大学の使命を死に至らしめ、文字通り「解体」してしまったという逆説的な喜悲劇)批判をはじめとして、いかなる批判からも擁護されるべきである。しかし、アメリカ流の筆者双方ともアメリカで教育を受け、アメリカの大学で教員経験を持っているため、いささかアメリカナイズされすぎているため、かなりの違和感を覚えざるを得ない。しかしながら、筆者たちの真剣さは疑うべくもない。その点は、ひしひしと伝わってくる。
 まずアメリカ=グローバル基準なのか、という疑問を抱かざるを得ない。次にアメリカ化、すなわち日本がこれまでやってきたかのような外国のサル真似(日本の風土に合うかどうかはお構いなしの、あるいは結果オーライの、いつの間にか日本化されましたよ的な)をすれば、大学はよくなるのか、日本はグローバル化するのか、という疑問が浮かぶ。さらには、大学の使命は産業界と連携し、国家と癒着し、さらには軍と連携したアメリカ的な大学になることが、果たして本当の大学なのか、という疑問も脳裏をかすめる。最後には、総長ないし学長のトップダウン式の大学の在り方が良い大学なのか、ということもいぶかしく思われる。

 二つの大学関係者の対談本で、話がかみ合わない部分が少なからずあった。片や新入生が200人もいない人気の公立大学、片や新入生が2000人弱の私立大学。迫りくる2018年問題を前にして、大学論の本は他からもいろいろ出るだろう。
 国際教養大学がもし秋田県以外に設置されたらどうなったか、気になるところではある。全国学力テストで常にトップクラスの秋田県がプラスになった面もあるはずだ。国際教養大学での成功は、規模の小さい大学関係者に大きな勇気を与えたことだろう。
 ネット上で公表されている桜美林大学のAO・大学特別・推薦入学合格者数は、全新入生約2000人中、約1300人というやや行き過ぎとも感じる数字。現在、社会では学力低下を含む様々な観点でAO入試に疑問の目が向けられている。秋に合否が決まるAO入試の大量合格は、高校教育を破壊するのではないかとも指摘される。本書を一読しただけでは、アドミッション・ポリシーの実際の運用がよく分からない。しかし、このタイトルの新書を堂々と出せる勇気は評価したい。
 数学教育で有名になったY氏は、本書の出版とほぼ同時期に「じっぴコンパクト新書」から、『教科書では教えてくれない!ほんとうに使える数学 基礎編』という本を出版して、前書きで桜美林大学の学生さん達を絶賛している。数学的読み物での絶賛は、Y氏の100%の本心からであると信じたい。

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