ブッデンブローク家の人びと 下 (岩波文庫 赤 433-3) の感想

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参照データ

タイトルブッデンブローク家の人びと 下 (岩波文庫 赤 433-3)
発売日販売日未定
製作者トーマス マン
販売元岩波書店
JANコード9784003243336
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ドイツ文学

購入者の感想

なにかこう、自分の親戚同士の会話みたいに思いました。いまだって、遺産がどうとか揉めるでしょう。あの頃のドイツと、現代の日本と、欲と、それを埋めるメンツと、自分の思うとおりにならない現実と、その意味で、人間は常に悲しい戦いを長い間、死んでは生まれ続けています。能力の高い人間の方が悲劇なんだと思います

 母エリーザベトの死によってトーマスは家の売却を決意する。永眠についた母の遺産をめぐって隣室で繰り広げられるトーマスとクリスチアンの兄弟喧嘩は何度読み返しても飽きない。仕事一徹の兄を冷酷だといって非難する遊び人の弟に対し「ぼくは君のようになりたくなかったからこうなったんだよ」とつぶやくトーマスの台詞は印象的である。
 心身ともに疲弊し、不出来な息子や妻の浮気によって何も信じられなくなったトーマスは、ふとしたきっかけでショーペンハウアーの『意志と表象としての世界(続編)』を手に取る。「死について」と題された章を一心不乱に読みふけり、その夜の寝室で哲学的真理に目覚めて嗚咽する場面は、個人的にはこの大作最大のクライマックスである。
 だがそれも一夜限りのことであり、翌日から再び日常に流されてゆくトーマスは、歯医者の帰りに転倒してそのままあっさりと帰らぬ人となる。妻からも愛人からも同情されず、トーニは華やかな葬式の挙行にせめてもの慰めを見出す。
 遺された一人息子ハンノの学校生活での一幕は、国や時代を越えて読む者に何とも言えない懐かしさを呼び起こす。辻邦夫が若い頃『ブッデンブローク家の人びと』を初めて読んだときに、読み終わるのが勿体無いと思ったと述懐しているのもうなずける。ハンノが戯れに弾く即興曲をまるで演奏が聴こえてくるかのように表現するマンの手腕は正に「言葉の魔術師」としか言いようがない。このハンノの早世によって物語は終わるが、その幕引きのテクニックもまた名人芸である。
「マンの全ての作品が滅びても『ブッデンブロークス』だけは生き残るだろう」と、本作に触発されて『楡家の人びと』を書き上げた北杜夫氏は言っている。これほどの名作、かつ今は亡き望月市恵氏による名訳が、品切れ中という現状には残念を通り越して憤りすら覚える。ぜひとも復刻してほしい。

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