青い花 (岩波文庫) の感想

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参照データ

タイトル青い花 (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者ノヴァーリス
販売元岩波書店
JANコード9784003241219
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ドイツ文学

購入者の感想

青年ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンの成長を、控え目ながらも沸き立つ詩情によって描き出した、ドイツ・ロマン派の作家ノヴァーリスの未完の作品です。
故郷からの出立、生の魅力を湛えた人々との出会い、永遠の恋人との出会い、死別、そして克服を経て成長していくハインリヒの姿が、本筋、詩、劇中劇(メールヒェンと呼ばれています)を巧みに配し、詩的比喩で彩ることで、読む者の内に詩的感興を湧かせます。とりわけ、詩、愛、心情、感性あるいは悟性、こういった人間の精神に纏わる状態あるいは働きを、天上界、地上界、地下界を舞台に劇化した劇中劇は素晴らしく、読む人々の精神を詩の躍る世界へと誘います。その他にも、ハインリヒの出逢う人々の口から語られ挿話も魅力的で、いずれもが他方を侵すことのない本筋との適切な関連によって、読む者を青年の精神の旅程に伴わせます。詩人の手遊びと呼ぶには余りにも巧みな構成の小説で、遺稿に窺える全体像を目にすることのできないことが悔やまれます。
しかし、詩人による小説の傑作と呼ぶのも躊躇われます。未完の遺稿とはいえ、『青い花』の魅力は凡百の小説の及ぶところではないのですが、詩的強度の不足がこの作品をドイツ文学における屹立を妨げているように思われるのです。形式を激しく揺すぶる、言葉さえもがもどかしい、辛うじて詩という形式によって保ち得ている、私たちの共感を許さないほどの精神の揺動がここでは見られないのです。しかし、ノヴァーリスが世俗的であったことで、彼の作品を非難することはできないでしょう。今の世にあっても、彼の遺した作品は憧憬に駆られる私たちの心に訴えてくるのですから。
内向の窮み、外向の窮み、いずれの方途を採っても、精神の突破の際まで行くことが詩人の性であるならば、詩人と小説家は決して相容れないものなのでしょう。このような作品を前にして無粋な思いではあるのでしょうが。

ドイツ ロマン派詩人による遍歴の物語ということになれば、誰しもがある種のファンタジー小説的な楽しみ方を期待するのも無理はないと思う。ところが『青い花』は、詩人の成長を描いた物語というよりは、むしろ詩そのものだと言える。私達が (トールキンのような) 冒険ファンタジー小説や RPG (ロール プレイング ゲーム) が好きで、容易にその世界の中へと入って行けるのは、それらが私達が子供時代からずっと馴染んでいる時間感覚や運動感覚を外部からの刺激として体験するからであり、私達はそれがフィクションであり自分が実際には安全な場所に居ることを知っているからだろう。しかし、詩は読み手に少し異なる“筋肉”を使うことを要求するようだ。シュタイナー風に言えば、この本は記憶への沈潜を通じて内的な体験を喚起するものだと言える。そのため、私達は必ずしも安全であるとは限らない。同じこの物語を読んだとしても、私とあなたでは全く異なるものと出会うことになるのかもしれない。その面白さと危険さを、ぜひ体験してみて下さい。

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