水俣病は終っていない (岩波新書 黄版 293) の感想
参照データ
タイトル | 水俣病は終っていない (岩波新書 黄版 293) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 原田 正純 |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784004202936 |
カテゴリ | » 本 » ジャンル別 |
購入者の感想
本書は1934年に生まれ、熊本大学で脳波や中毒性神経精神障害に関する研究を専攻し、水俣病の実地調査や水俣病裁判にも関与した医師が、1985年に刊行した230頁ほどの新書本であり、1972年刊『水俣病』の続編である。1972年水俣病裁判は患者側勝訴の形で結審したが、その後も患者たちの苦難は終らなかった。チッソ側は認定制度による補償対象者の絞込みを企図し、怒りをこらえきれず暴力に走った患者側は逆に裁かれた。行政の無為、第三水俣病事件に便乗した調査妨害、水俣病の定義・病像をめぐる論争と潜在性水俣病の問題、胎児性水俣病の問題、差別と離郷者の問題、病名変更問題、汚染経路の問題等々、未解決の問題は山積し、1972年以後も多くの裁判が提起された。著者は患者との接触や裁判闘争の中で、改めて医学の社会的責任について考えさせられるのである。他方、水銀中毒が世界中で生じていることを知った著者や患者たちは、積極的に海外の被害者との交流、情報交換、実地調査に乗り出し、公害対策先進地域である水俣の経験を世界に発信しようとする。また、若い患者たちが自立を志して自主研修会やイベントを実行したり、独自の治療所が設置されたりする中で、相思社という総合的な水俣病センターが設立されたこと等も見逃せない。このように、本書では主として水俣病裁判勝訴後の患者達を取り巻く光と影について論じられている。著者が裁判の一方の当事者であることから来る偏りや、85年刊行という古さは考慮されるべきであるにせよ、読みやすく、かつ総合的に「公害の原点」といわれる水俣病について論じており、非常に興味深い内容だった。