タウ・ゼロ (創元SF文庫) の感想
参照データ
タイトル | タウ・ゼロ (創元SF文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | ポール アンダースン |
販売元 | 東京創元社 |
JANコード | 9784488638054 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学 |
購入者の感想
亜光速のスピードで32光年離れた乙女座ベータに向かうはずだった宇宙船が星間ガスと衝突し、その衝撃がもとで減速できなくなるという筋立て。
相対論的なスピードで進む宇宙船と故郷の太陽系との時間は100年、1000年、10000年とずれてゆくなかで、帰還の希望も絶たれた船員たちの生き残りをかけた戦いが描かれるのですが、その最大の敵は人間自身の心の絶望なのでした。
読者の視点は主に護衛官レイモントを追いかけますが、この一見マッチョで強権的で有無を言わせない主人公が、実は人間のもろさや弱さを知り抜いていて、絶望的な状況でも船員全体の社会が崩壊しないように、あくまで前向きに画策する姿は感動的です。副長リンドグレンの存在も、女性の強さ、弱さを醸し出してドラマに深みを与えています。
話の展開とともに幾何級数的にスケールが大きくなってゆくのも、SF の醍醐味。ハード SF として紹介されることが多い本書ですが、理論的な話題は人間ドラマの中に句読点のように挿入されるだけですので、読み飛ばしてもかまわないでしょう。実際、冷徹な宇宙の描写と、混沌とした人間ドラマの描写は作中で対立するように描かれていて、無限に空虚な宇宙に対峙した人間の生命力に対する讃歌とも読み取れます。
このテーマに哲学的な思索や、文学的詠嘆や悲劇を加えれば、優れた文学作品にもなり得たはずですが、作者はあくまで娯楽作品としてのペースと雰囲気を守って仕上げています。SF ファンのみならず、未来への希望を失っている人にすすめたい一冊。
相対論的なスピードで進む宇宙船と故郷の太陽系との時間は100年、1000年、10000年とずれてゆくなかで、帰還の希望も絶たれた船員たちの生き残りをかけた戦いが描かれるのですが、その最大の敵は人間自身の心の絶望なのでした。
読者の視点は主に護衛官レイモントを追いかけますが、この一見マッチョで強権的で有無を言わせない主人公が、実は人間のもろさや弱さを知り抜いていて、絶望的な状況でも船員全体の社会が崩壊しないように、あくまで前向きに画策する姿は感動的です。副長リンドグレンの存在も、女性の強さ、弱さを醸し出してドラマに深みを与えています。
話の展開とともに幾何級数的にスケールが大きくなってゆくのも、SF の醍醐味。ハード SF として紹介されることが多い本書ですが、理論的な話題は人間ドラマの中に句読点のように挿入されるだけですので、読み飛ばしてもかまわないでしょう。実際、冷徹な宇宙の描写と、混沌とした人間ドラマの描写は作中で対立するように描かれていて、無限に空虚な宇宙に対峙した人間の生命力に対する讃歌とも読み取れます。
このテーマに哲学的な思索や、文学的詠嘆や悲劇を加えれば、優れた文学作品にもなり得たはずですが、作者はあくまで娯楽作品としてのペースと雰囲気を守って仕上げています。SF ファンのみならず、未来への希望を失っている人にすすめたい一冊。