父、断章 の感想

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参照データ

タイトル父、断章
発売日販売日未定
製作者辻原 登
販売元新潮社
JANコード9784104563050
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » た行の著者

購入者の感想

七つの作品からなる短編集。
表題作は、タイトル通り自らの父親の思い出を中心に語った自伝的な作品。ここで披露される父と対峙するエピソードは、本文にもあるように過去の著者の作品で既に語られている(『暑い読書 冷たい読書』)。その事実を改めて取り上げるところも含め、著者のスタンスは、あくまで客観的な「語り」にこだわってストーリーを進めるというもの。自身の過去の経験すらも、フィクションの世界と同レベルの対象として「語り」直している。そこが物語り作家としての辻原氏の真骨頂と言えよう。
そういう意味で、『母、断章』以外の他の五編も大なり小なり、過去の事実をベースにしたフィクショナルな世界の構築という意味で共通している。中でも『夏の帽子』と『天気』の出来栄えは、素晴らしい。
どちらも辻原氏にしては珍しく情感を湛えたラストが、読後に余韻をにじませているが、特に前者は哀切な思いが無理なく溢れ出すような締めがピシリと決まった傑作と言えよう(ちょっと、ナボコフの『ロリータ』中のワン・シーンを思わせるが)。
『母、断章』だけは、何の細工もなく素直に事実のみを語って行くスタイルであり、さすがの辻原氏もやはり人の子、母親だけはフィクションの対象として手荒な扱いは憚られたということだろうか(H25.2.10)。

日経、読売、毎日の3紙に取り上げられたこの辻原登の短編集は期待を裏切らない完成度です。時間的には古代から現代まで、空間的には世界の果てから夢の果てまで時空をひとつの文学空間に統一させる辻原の小説技法は、この短編集の中の「チバシリ」でも遺憾なく発揮されている。昭和の脱獄王、白鳥由栄の脱獄の一部始終を手に汗握る迫真の筆致で描いた吉村昭の「破獄」からたくさんのヒントをもらいながらも辻原は、脱獄王の心情を深い闇に誘ってみせる。読者はいつものように最後の展開に驚嘆するのである。

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