許されざる者〈下〉 (集英社文庫) の感想

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タイトル許されざる者〈下〉 (集英社文庫)
発売日2012-08-21
製作者辻原 登
販売元集英社
JANコード9784087468717
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » 歴史・時代小説

購入者の感想

 いわゆる戦争の功罪を、この作品から垣間見た。
 戦争が起きたおかげで実現した出合い。
 学校に通えない子供たちのための、寺を場とした青空学校。
 これらは、戦争のプラスの側面だろう。

 戦争が起きたおかげで人々の心は、もう二度ともとには戻れなくなる。
 点灯屋、ねじ巻き屋、左官、車夫、……自分はその道のプロフェッショナルだ、という自分の職業に対する誇りを持ち、そして、困った人に対する同情・憐憫の情を抱き、困った人を助けたい、という美しい心、美徳をそなえた人々。彼らを戦争が直接的に、また、間接的に変えてしまう。
 作中、「戦争を扇動するのは悪徳の人で、実際に戦うのは美徳の人だ」という言葉が引用されているが、あらゆる悪を扇動するのは悪徳の人で、実際に行動するのは美徳の人、なのかもしれない。可愛そうだ、力になってあげたい、役に立ちたい、そういう、美しい心をそなえているがゆえに、知らずしらずのうちに、人々は悪の道に足を踏み入れてしまう。背負う必要のなかったはずの罪、抱く必要のなかった秘密を代償にして。

 繰り返し場を変え、形を変えて登場するテント。人間のように体の中に骨があるのではなく、体の外に骨がある、という構造。いざというときには、飛べる。カナブンのように。
 飛べる、となると、軽そうだ。軽さ、かるみ、というのは、この小説が有している特徴かもしれない。
 上林が、「小雪」という騾馬に乗り、安否が絶望視される馬渕を探しに行く、シリアスなシーン。このシリアスな局面での滑稽、郷愁をまじえた描写は、重さ、深刻さからするりと身をかわす、かるさ、かるみが漂う。

――人形の動作は、はじめはぎごちなくみえていても、太夫の語りと三味線の音色が作り出すリズムによって、生命が吹き込まれ、型にのっとって動いているにもかかわらず、ある種の自在感を獲得しはじめる。

 「人形」を〈登場人物〉、「太夫の語り」を〈語り手の語り〉、「三味線の音色」を〈登場人物の発話〉に置き換えると、これは、あるいは作者によるこの小説の評言ともなりうるかもしれない。

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