エピゲノムと生命 (ブルーバックス) の感想

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タイトルエピゲノムと生命 (ブルーバックス)
発売日販売日未定
製作者太田 邦史
販売元講談社
JANコード9784062578295
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 生物・バイオテクノロジー » 遺伝子・分子生物学

購入者の感想

人の外見,性格,運動能力などといった個人差を生み出す要因として何が考えられるでしょうか.まず両親からの遺伝が思い浮かぶ方もいるでしょうし,生まれた後の体験,例えば運動能力であれば練習といった広い意味での環境を挙げる方もいるでしょう.現在は遺伝と環境の両方が個人差を生み出すというのが定説になっています.そして,遺伝と環境の両者を橋渡しするのがエピジェネティクスというミクロレベルの現象であり,本書はこの分子レベルでのメカニズムを詳しく解説した啓蒙書です.これだけではこの本を読もうと思う人は少ないでしょう.しかし以下のような研究成果を耳にするとどうでしょうか.

第二次世界大戦においてオランダはドイツから食糧封鎖を受け,重大な飢饉に陥り,多数の餓死者が出ました.しかし被害はそれだけではありませんでした.飢饉の時代を胎児として過ごした者を追跡調査したところ,中高年になってからメタボリック症候群や乳がん,統合失調症になるリスクが高まることが判明したのです.この原因として,胎児期に栄養が不足すると,飢餓に対応する遺伝子が活性化され,同じカロリーでも普通の人間より効率よく利用されるようになる,という仮説が立てられています.この研究が重要なのは,まったく関係ないと考えられがちな遺伝と環境が実際には相互に影響を与え合うという点にあります.

本書はメンデルの法則,DNAの構造といった分子生物学の基礎から始まり,ヒストンタンパクのメチル化,X染色体の不活性化といった具体的なメカニズムを解説すると共に,ES細胞やiPS細胞とエピジェネティクスの関係といった話題にも触れています.最後の2章では,上述した環境と遺伝の関連,世代を超えたエピゲノムの継承(親の体験が子孫に影響すること)について書かれていますが,これらの話題はマット・リドレーの『

 著者は「あとがき」で、小学生の頃に(おそらく1970年代)、背伸びしてブルーバックスを読んでいた、その頃のブルーバックスは一線級の学者が子供たちのためにかなり難しいことを紹介していた、そんな硬派な本が少なくなってきたと書いています。
 そんな著者の思いや「メディアであまり紹介されない話題」を取り上げたということもあって、小著なのにかなり高密度な内容です。例えば、第1章「生命をつなぐバトン」と第2章「二重らせん上の暗号」の37ページに高校の「生物」で学習する遺伝の内容が凝縮されています。これでまだ全体の13%です。
 第3章「遺伝子以外のDNA」からエピジェネティクスの内容に入ります。エピジェネティクスは遺伝子調節の課題として最も重要な内容ですが、ブルーバックスには初登場です。
 第4章「偽装するDNA」と第5章「DNAの変装法」で遺伝子の発現調節のいろいろな例が紹介されます。大事な個所に線を引きながら読んだら線だらけになってしまいました。第6章「飢餓ストレスとクロマチン構造」は著者らの研究もありかなり力を入れて書かれています。第7章「エピゲノムによる生命の制御」には三毛猫のX染色体の不活化の話題やオプシン遺伝子の話題があります。第8章「環境とエピジェネティクス」では食物の影響の例がとりあげられています。第9章「世代を超えたエピゲノムの継承」では飢餓を経験した胎児へのプログラミングの例があります。
 ギルバートらの『生態進化発生学』(東海大出版会)と共通の例もありますが、この本と併せて読めばエピジェネティクスの現代におけるトピックを通覧することができると思います。


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