炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書) の感想

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参照データ

タイトル炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)
発売日販売日未定
製作者佐藤 健太郎
販売元新潮社
JANコード9784106037320
カテゴリジャンル別 » 歴史・地理 » 世界史 » 一般

購入者の感想

 この本は凄い。元素としての炭素の働きの多様性はそこそこ知っているつもりだったが、この
ように網羅的に書かれると圧倒されてしまう。なんと我々自身(生物全体)が炭素で出来上がっ
ていて(水分を除いた体重の半分は炭素)、炭素無くしては存在し続けることもできないのだ。
しかも炭素自体は地球上の全ての元素の0.08% しかないらしい。著者は人類が生きるための食糧
としての炭素、とそれにまつわる歴史上の出来事から読者に語りかける。まずは生きるためのカ
ロリー供給元である「でんぷん」を巡って人類は地球上を模索する。小麦、稲、とうもろこし
、じゃがいも等の作物からでんぷんを採取する人類が、気候変動や人口動態の変化から生き残り
をかけて闘う歴史が紹介される。そして砂糖、香辛料と言った貴重な食物の取得に、命をかけた
人達の物語が面白く描かれる。食糧のつぎに人類の心を動かした炭素を含む物質の紹介がなさ
れる。まずは世界を制した合法ドラッグ、ニコチンである。元来南米の原住民の間でたしなまれ
ていたらしいが、コロンブスによって持ち帰られて以後、その習慣性からヨーロッパで爆発的に
普及して最近まで世界の一大産業であった(近年チョット旗色が悪い)。そして歴史を興奮させ
た物質カフェインだ。代表は茶、コーヒーであるが茶の歴史は古く中国にあったが、コーヒーは
豆を炒るという製法が確立されたのが比較的新しいことらしい。最後に人類最大の友となった
物質、エタノールだ。もともとは自然界で発酵した穀物や果物から生じたものだが、古くから嗜
まれて、いつの時代にもどこに行っても酒屋を探すのは簡単だ。しかしイスラムや仏教など宗教
的な制約を受ける人達も多い。ここまで書いてきたことだけでも、いかに我々が炭素を口にして
生きているかが判るだろう。最後に世界を動かしたエネルギーとしての炭素について、述べて
いる。ここでは炭素をフルに生かす元素、窒素―ニトロの話だ。人類が生きていくための炭素を
穀物から得るために、多くの窒素肥料が必要とされたが、なんと19世紀までは、硝酸ナトリウム

 学生時代には化学を専攻し、製薬会社で勤務後、東大にて教員を務めたという異色の経歴を持つサイエンスライター佐藤健太郎氏による、物質を通して歴史を見るという独自な視点での一冊である。炭素を含んだいくつかの物質とアンモニアに焦点を当てながら、人類の文明の歴史においてこれらの物質がいかに重要な位置を占めるのかということを、膨大な参考文献を元に分析している。著者の深い知識に裏付けられる内容に加え、読んでいてクスリと笑わされる箇所が随所にちりばめられており、飽きずに読むことができた。

 内容はもちろん化学に関連するが、化学反応式を使わずに平易な表現で化学反応を示してくれる、歴史に関するストーリーの方が多い、など、専門外の人にとっても読みやすい内容であろう。化学を専門とする大学生・大学院生にとっては、自らの選んだ学問が人類の将来を支える可能性を感じることができると思うので、明日にでも手に取ることを薦めたい。もちろん他の理系学生であっても、分野横断的な知識を蓄えることができるであろう。私は大学にて化学を教える教員であるため、将来の日本のサイエンスを支える子供達を教える中高での理科の先生方にも是非とも読んでもらいたいと考えているが、小学校の先生方、中高の社会科の先生方、他の教科の先生方が読んでも、授業のネタが拾えること請け合いである。地方自治体の教育関係の方がおられるのなら、日本の科学技術の将来のために、学校や自治体の図書館に導入して頂きたい本でもある。これだけ人に推薦したくなる本に出会ったのは久々なので星5つ。

 化学をはじめとする自然科学に対して苦手意識を持つ人も多いであろうが、本書を読むことで何となくではあるが、人類が物質を取り扱ってきた長い歴史と、それらの物質の持つ重大さがわかっていただけると思う。著者の前作である「ゼロリスク社会の罠」等も合わせて読むと、自然科学を専門としない人でも、科学的な考え方が身につくのではないかと思う。

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新潮社から発売された佐藤 健太郎の炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)(JAN:9784106037320)の感想と評価
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