「アラブの心臓」に何が起きているのか――現代中東の実像 の感想

「アラブの心臓」と呼ばれる地域を構成する、エジプト、シリア、イラク、レバノン、ヨルダン、パレスチナ各国家(地域)の、主にアラブの春以降の現象を各政治制度や歴史を鑑みることで、民主主義やそれを求める運動を「善」、それに対抗する政府等を「悪」とする西欧主義的で勧善懲悪な短絡的捉え方に警鐘を鳴らす(とはいえ、本書は単なる西欧主義批判をしているわけではない)。日本のメディアでもしばしば見られるこうした「虚像」から脱却し、「実像」に迫ることを本書が目的としている通り、宗教対立に見えそうな騒擾も実は政治的な権力争いの結果であるなど、決して姑息な解説に留まらない、客観的な観察によって得られる論理的な分析枠組みを提供している点で、巷に溢れる解説本などといったものと一線を画すると思われる。編著であるが各著者間の連携が取られている(語句の一致や、各章の展開の仕方等)感じがするので読みやい。