風の影 上 (集英社文庫) の感想

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参照データ

タイトル風の影 上 (集英社文庫)
発売日販売日未定
製作者カルロス・ルイス・サフォン
販売元集英社
JANコード9784087605082
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

パウロ・コエーリョを、どこか彷彿とさせるような小説である。
架空の小説家フリアン・カラックスの「風の影」、その一冊を巡る、幻想的で、謎めいた物語。
少年はその一冊から、作者の人生を辿ろうとする。
冒険。謎解き。恋。サスペンス。娯楽要素は惜しみなく注ぎ込まれ、何年にも渡る、壮大な物語を構築している。
たしかに、問題点がないわけではない。
整理できたのではないか、と思われる冗長な部分や人間関係はあったし、
謎解きの答えがある人物の手記に負うところが大きすぎるのではないか、とも思った。
クライマックス、敵との決着の場面も、それまでの舞台立てに比して、わりあいあっさり描かれすぎている印象だ。
しかしそれらを差し引いても、この小説がきわめてすぐれた現代文学であることは疑いない。
台詞のひとつひとつまで、丁寧に、丁寧に書かれた、誠実かつ鮮やかで、ユーモアとペーソスが共存する文章。
冒頭からもう涙が出るほどだ。
ダニエル。その父親。フリアン・カラックス。
それぞれの登場人物が誠実で、悲しみを背負っていて、好感が持てる。
とりわけ、主人公に寄り添う元ホームレス、フェルミンのキャラクターは、白眉の出来栄えだ。
風采の上がらないそのやせっぽちの姿に、読者は理想の、無二の友人像を見出すことができるだろう。
お手軽な娯楽を提供するラノベとは、対極に位置する小説である。
文章を極限まできわめ、読者に真っ向から挑むような、真剣勝負の文藝作品。
こういう小説がいまだ全世界で広く受け入れられていることに、ぼくは希望を抱く。
日本でも、こういう小説こそが多くの人々に読まれてほしい。
そうでなければ、小説という文化は、遠からず死んでしまうだろう。

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