TOKYO一坪遺産 (集英社文庫) の感想

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参照データ

タイトルTOKYO一坪遺産 (集英社文庫)
発売日2013-10-18
製作者坂口 恭平
販売元集英社
JANコード9784087451290
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

著者は小さいとき、三人兄妹同居の六畳間がきつくて、しかしどこか広い空間を求めるわけにはいかず、机と椅子の上に画板をわたし、毛布をかけて、洞窟を作りだし、そこで生活をしてみたそうです。その心地よさ。この世には、見えない空間がたたみこまれているという発見をします。
 子どもというものは押し入れが好きだったり、小さな秘密基地を体に合わせて作りだしたりして、逆にとほうもない空間を手に入れます。
 冒頭のこのエピソードから、なつかしく思い当たることの連続で読みました。

 本書では路上生活者の三畳の家、蚤の市のシートの上、駐車場の車の上にありとあらゆる植木鉢を並べる隙間芸術、折りたたみハウスである宝くじ売り場、ギターをくりぬいて中にミニチュアを作りこむ人、豆本作家など、さまざまな「身体が生み出す空間」が取材されています。面白すぎる「コンパクト」志向。
 著者は建築家でもあるので、人間の周辺には二種類の空間があり、ひとつは「設計して作られた空間」(座標的な空間)、もうひとつは「体、頭を積極的に動かすことによってつかみ取って作り出す、感覚的な空間・体の延長線上にある見えない空間」があるのだと書いています。

 それは生物としての縄張りであるとともに、人間の思考や芸術を生み出す「空間」でもあるのではないか。ということで、江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」や佐藤春夫の「美しき町」など、空間を扱った小説を次々に読みあさって、それらを絵にしたりもしています。

 現在、著者はむしろ小説家として、こうした身体的空間体験を探りとっていますが、その原点として、具体的取材に基づいたこのレポートは、著者が得たインスピレーションの源泉でもあるようです。

 ひとはなぜ、ドールハウスやミニチュアを作るのか。ひところ自分はその問いに取り憑かれていましたが、それに対しても独自の答えを得られた気がします。「コンパクト」という言葉で著者が表現しているものは、「自分そのものであるような空間」すなわち「もっとも幸福な空間」探しであるように思います。

 読後、忘れていたものを確実に思い出したという、何とも言えない充足感がありました。

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