遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫) の感想

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参照データ

タイトル遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)
発売日販売日未定
製作者カズオ イシグロ
販売元早川書房
JANコード9784151200106
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学

購入者の感想

小生の拝読したのは原作の第二稿訳です。第一稿訳は読んでおりません。原作のタイトルの訳から見ると第二稿の方が明らかに素直で分かりやすい。長崎に住む女性達の日常のさりげない会話がしつこくなくくどくなく描かれている。彼のベストセラーになった最初の作品とのことで、新人の持ついささか初々しさが感じられ、青年石黒の抑制の効いた文体に好感が持てる。石黒氏のキャラクターが読める感あり。

昔見た映画「東京物語」の原せつこさんを常に頭に浮かべながら読みました。

イシグロは小津映画に大きな影響を受けたと語っている。長崎湾を見晴らすアパートでの義父と悦子のやりとりは、まさに小津の代表作『東京物語』の尾道水道を見晴らす家での笠智衆演じる義父と原節子演じる嫁のやりとりそのものだと思った。
物語は追憶と現在を交錯させながら一種不気味な緊迫感をもって進んでゆくのだが、語られないことが多い物語だ。悦子は英国人と再婚しているが、前夫二郎とは離婚したのか死別したのか、英国人と再婚して英国に渡ったいきさつ、これらは読んでいて当然気になる事柄なのだが、語られることなく終わってしまい、消化不良感が残る。その辺は読者の想像に委ねられている形だが、作者が本作に込めたの意図は個々の登場人物のストーリーではなく、主人公のさまざまな追憶の断片を通して、人生や人間社会の不条理といったなものに焦点を当てることなのだろう。
長崎湾は低い山並み=Hillsに囲まれた坂の街であり、坂を少し上がれば山並みが目に入ってくる。昭和30年代の日本を知る人、長崎に行ったことがある人には、自身の記憶と重なりあい、懐かしさを伴って味わい深く読むことができるだろう。それはまた幼児期のイシグロの脳裏に強く刻まれた記憶でもある。

冒頭で明かされた「私はついに佐知子のことがよくわからなかった」という悦子の言葉は、自身に対する言葉でもあり、日本的な価値観で見て当時は批判的だった佐知子と同じく、母というよりも女として人生を歩む決意するに至った過程を、彼女自身が不可思議と捕らえているとも思えました。女としての思いと、母としての思いに引き裂かれる女性の物語と言っても良いと思います。筋立ては良く出来ていると思います。
米兵とともにアメリカに渡った後の生活を夢として語る佐知子と、夫と子供と共にある自身の生活は幸せだと語る悦子、二人の会話が完全にすれ違っている場面は一つの山場だと思いました。また、佐知子の娘の万理子と悦子の娘の景子の人生が微妙に重なる点は、物語に奥行きを与えていると思います。景子の末路は明らかですが、万理子のその後は明らかではありません。文章化されていませんが、全く別の結末があったのかもしれないという悦子の疑念や後悔が感じられ、同時に女性が自分らしく生きることの難しさを感じさせる展開でした。

原作を読むと、終盤に衝撃的なストーリーの転換があります。
日本語版は最後まで淡々とした描写で終わっていきます。
全く趣の異なる本になってしまっています。
これは翻訳者のミスです。
日本語訳版しか読んでいない方は、ぜひ原書を読んで下さい。全くの別物です。
この日本語訳版の問題については著者もインタビューで語っています。
ちなみに原作は☆☆☆☆☆です。

書籍が売り切れではじめて、KINDLEで購入しました
すでに、半分以上、読破中

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