砂の本 (集英社文庫) の感想

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参照データ

タイトル砂の本 (集英社文庫)
発売日2011-06-28
製作者ホルヘ・ルイス ボルヘス
販売元集英社
JANコード9784087606249
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

 短編と言えば私には即座にこの「砂の本」の名が浮かぶ。このボルヘスが自分と出会うという不思議な話から始まる。それぞれの物語が共鳴し、ボルヘスの筆で落ち着く。あるはずのないものがある。無限という名の螺旋。はじめもなければ終わりもない、「砂の本」。これが最後に出てくる。まるで憑かれたかの如く、本に執着するわたし。それこそが本の持つ魔力だ。数え切れぬ程の本の中で時にそうした幸運に巡り合う。この主人公はそれを隠したが、私ならきっと人嫌いになっても読み続けただろう。その他、収録されている汚辱の世界史には日本ではお馴染の大石内蔵助、吉良上野介らの物語、そう、「忠臣蔵」も載っています。それは時空を超えて語り合う者たちの声、そしてそれを受け継ぐ私達の声でもあります。語り継がれる物語、つまり、作者が死してもなお続いてゆくという意味では砂の本の主題に沿う。終わりがなく、それは私達の中でも絶えず螺旋してゆく。きっと次の世代にも。こうして私達は本を受け継いできたのだから。「砂の本」、これぞボルヘスの道。目がほとんど見えなくなったボルヘスが口述によって完成させた「砂の本」は私にとって短編小説の最高峰とも言える本です。

自分が過去書いたものを読んでみて、何かいやな気持になることがある。それは確かに自分の文章だし、あのときは少なからず「これでよし」と思って仕上げたものなのだが、今の自分には、草いきれのようにムっと甘く、読むに堪えないものが多いのだ。こんなに青臭いのは、恐らくは読み手を意識しすぎているからだ。あの頃は自分の言葉作りにぎりぎりいっぱいで余裕がなかったんだな~と思う。そしてそんな昔の自分が何だか恥ずかしなってきて、そこから先を読み進めることができなくなってしまう。私たちは他者の声をたえず先取りして語っているのかもしれない。語るより先に他人の声を思い浮かべ、それに応えるように心のうちで語ることはよくあることだ。『砂の本』第一の短編「他者」は、そんなalter egoの話。続く「ウルリーケ」もまた。すぐ微笑む、するとその微笑が彼女自身を遠ざけるような彼女が、僕の名前を呼ぶ。鏡は消える。砂のように時間が流れ、僕は彼女のイメージを抱く・・・。 ために万巻の書を集め、わさわさと働いてきたその会議とは、現実にそしてひそかに存在している、世界でありまたわたしたち自身なのだった、というお話が次の「会議」。conference、共に付き合わせる場、それはわれわれ自身の存在そのことなのであり、そこにあって言葉とは、共通の記憶を負おうとする象徴なのだ。そして、解釈の問題を扱ったのが「三十派」。テクストの自己内在化の果てに、自己と神との同一化は免れない。「鏡と仮面」、「ウンドル」では万能言語それ自体の存在を問う。総じてボルヘスは、言語それ自体という神話を否定して、言語という人間愛を謳っているように私には思える。木の実の熟れて落ちるように、自分自身から過去の自分がぽとりと落ちるとき、そのとき私も、彼のように、自分の分身と静かに話をしつつ、愛するように、そのように、物語ることができるのかもしれない。

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