犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫) の感想

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参照データ

タイトル犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)
発売日販売日未定
製作者武田 百合子
販売元中央公論新社
JANコード9784122008946
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 日記・書簡 » 日本文学

購入者の感想

淡々とした日記風の叙述でありながら、さりげないユーモアとペーソス、そしてドラマすら秘めた愉快な本である。著者は夫である武田泰淳と竹内好に連れ立ってソ連邦時代のロシア旅行に参加する。そこでこの二人の有名人が見せる人となりが興味を引くかもしれない。時は昭和44年(執筆は昭和53年)だから今から見ればおよそ30年の昔である。始まって間もない外国への観光旅行の実際はどうだったかも興味を引くだろう。インツーリストによって取り仕切られるロシア旅行はとりわけ不便だった。横浜から船でナホトカへ、ナホトカからハバロフスクまでは鉄道、そこからは空路でイルクーツク、次いでウズベキスタン、グルジアの諸都市をへてヤルタ、レニングラード、そしてモスクワへという20日間の長丁場である。

百合子夫人にとっては毎日見なれている大作家や大思想家よりは一人で参加した、飛びぬけて年上の錢高老人の言動に惹かれるものがあったようだ。観光地で何を見学したかについてはあまり期待しない方がいい。彼女の関心は日々の食事、そして夫君と竹内老人の福祉、つまり、ご機嫌である。初めての外国旅行でロシア語のカタコトを駆使して走り回るのはもっぱら彼女の役なのだ。しかしおそらく彼女がひそかに楽しみとしたものは何よりも異国で初めて見る人々の生活ぶりである。これに比べれば時おり姿を見せる2人の同伴者は年老いた弥次喜多さながらである。それは日本男性の典型的な国際的適応性と変わるところがない。夫君は彼女に向って「おいポチ、楽しいか」などと声をかける。彼女は中央アジアの都市を振り返って「前世というものがあるなら、そのとき、ここで暮らしていたのではないかという気がした」と思う。彼女は日々楽しかったのである。そしてそのような彼女の観察と言動が過不足なく読者に伝わってくる。

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