憲法とは何か (岩波新書) の感想

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タイトル憲法とは何か (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者長谷部 恭男
販売元岩波書店
JANコード9784004310020
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 法律 » 憲法

購入者の感想

 立憲主義とは、生活領域を私的な領域と公的な領域に区分して、私的な領域では各自の信奉する価値観に沿って生きる権利が保障されるけど、公的な領域では、社会全てのメンバーに共通する利益を追求するものでなければならず、これは、人々に血みどろの紛争を避けるかわりに、ある程度の無理を強いる枠組みだ、という概念規定はスッキリしているな、と感じました。

 この本は、自民党が郵政選挙で圧勝した勢いを持って、能力・識見とも史上最低だった首相の元で、憲法改正の動きに出そうとしていた時期に書かれました。著者は、こうした動きには反対の立場なのですが、その前提として、太平洋戦争の敗北によって日本はアメリカによって国体を変更されていることを強調します。日本は、あれ以上の国土と暮らしの破壊を防ぐために、無条件降伏をして、その結果、根本的な社会契約=憲法を変えることを受け入れたのだ、と。改憲派の目的は憲法九条の改正ですが、現状の九条で自衛隊を保有していもなんら問題はない、というのが長谷部先生の立場。九条や二一条は原理(principle)であり準拠(rule)ではないとして、九条が準拠(rule)であるという解釈は立憲主義とは相容れないと切り捨てます(p.72)。

 そして憲法が通常の法律より、変えにくくなっているのは、危なっかしいことで憲法をいじるのはやめて、通常のプロセスで解決できる問題に政治のエネルギーを集中させるためだ、としています(スペインやスウェーデンでは総選挙を挟んで二度の国会発議が必要とか)。この本を読むと、幼稚な国家主義的発想から不要不急の憲法改正にのめり込んでいった自民党政権が、本来、対処しなければならない政策課題を放っておいた結果、年金問題などから総スカンを喰らって、今回のような大敗北を招いた、ということがよくわかります。

  
 2015年の「新語・流行語大賞」に、年間大賞として「爆買い」と「トリプルスリー」が選ばれるとともに(ちなみに、14年は「ダメよ~ダメダメ」「集団的自衛権」である)、トップテンの中に「アベ政治を許さない」と「SEALDs」が入った。また、「今年の漢字」には「安」が選ばれ、いずれも「アベ政治」や「安保(=戦争)法制」をイメージさせるものであったと言ってよいだろう。それらの関連で、私は「立憲主義」という言葉も、ある意味、今年を象徴するような用語であったと考える。実際、「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動(シールズ):Students Emergency Action for Liberal Democracy-s)」においても、そのopinion(所信)の一番目に「私たちは、立憲主義を尊重する政治を求めます」として、「立憲主義(constitutionalism)」という立ち位置を宣揚している。

 この「立憲主義」というターミノロジーが人口に膾炙した契機の一つに、2015年6月4日の衆議院憲法審査会に参考人として召致された3名の憲法学者の発言があったと私は思う。当著は、その中の一人で自民・公明・次世代から推薦された長谷部恭男・早稲田大学法学学術院教授の「立憲主義」などを巡る一般向けの啓蒙書である。まず、「立憲主義」とは「近代のはじまりとともに、ヨーロッパで生まれた思想」で、「この世には、人の生き方や世界の意味について、根底的に異なる価値観を抱いている人々がいることを認め、そして、それにもかかわらず、社会生活の便宜とコストを公平に分かち合う基本的な枠組みを構築することで、個人の自由な生き方と、社会全体の利益に向けた理性的な審議と決定のプロセスとを実現することを目指す立場」を指称する(はしがき)。

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