天皇の歴史(8) 昭和天皇と戦争の世紀 の感想

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タイトル天皇の歴史(8) 昭和天皇と戦争の世紀
発売日2013-02-15
製作者加藤陽子
販売元講談社
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カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

購入者の感想

 本書の眼目は、大日本帝国憲法に「天皇は神聖にして侵すべからず」の条項が置かれたのは、天皇を政治的立場に置いてはならないという”明治体制の知恵”によるものであったのに、天皇機関説や統帥権干犯問題をめぐって引き起こされた議論によって、当時の国粋イデオロギーの信奉者たちは、天皇の絶対性を強調し天皇親政を求めるあまり、むしろ天皇から無答責性をはく奪してしまい天皇を「政治的存在」にしてしまった、という論旨を緻密な論証を積み上げながら述べたくだりだろう。

 そして昭和天皇自身も、天皇は”神聖な存在”として政治を超越し距離を取った立場にいなくてはならないという、明治体制の指向した立憲君主像を自らのあるべき姿として目指していたにもかかわらず、対中国政策を巡っての軍部の暴走を苦々しく思うあまり、”統帥権の独立理論”を逆手にとって軍部の行動を直接制御しようという言動をとるようになり、やがてそれは”終戦の聖断”につながったというのが著者の展開する論旨だ。

 更に本書を迫力あらしめているのは、そのような”誤った天皇の神聖化”思想は、具体的な政治や軍事の場よりも、むしろ国民の教育の場で徹底して布教されてゆき、その結果、日本国民が一種の洗脳現象に陥ってしまい、結局は亡国への道を転げ落ちることから逃れられず、最後の救済が、立憲君主像ではない絶対的神聖像としての天皇が下した聖断によるほかはなかったと指摘していることだろう。

 昭和前期の日本はひと口に「暗い時代」と呼ばれることが多いが、その暗い時代が”廃墟のなかの聖断”によって終止符が打たれるまでにどれほどの苦悩とディレンマの道を歩んだかを、昭和天皇の立ち位置に寄り添って考察して見せた本書は、抜群の歴史書といってよいだろう。

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