新しい国へ 美しい国へ 完全版 (文春新書 903) の感想

本書に接し、このレビューを書いているのは2017/7/28。
念のため申し上げると、安倍政権の支持率が急落し、加計学園を巡る騒動の霧は全く晴れず、数えきれないほどの問題を引き起こしてきた稲田防衛大臣が本日「今さら辞任」をした、そんなタイミングである。

安倍政権が発足して5年近くが経ち、ほぼ「結果」が見えてしまった今、本書のレビューを書くことはいささか「後出しジャンケン」の感があるのは心苦しいが、ある意味では今読んでこれ程「面白い」書物も無い。安倍氏は本書で色々と格調高く「正論」を開陳なさっているが、「現実」とのあまりの乖離のひどさには大爆笑を禁じ得ない。中でも「拉致問題」「年金」「防衛」等々の項目に関しては、「ご立派な事ばかりお書きですが、貴方は結局どんな実績を残せたんですか」と言いたくなる程に突っ込みどころ満載だ。

「丁寧な説明をする」気持ちも能力も無く、「任命責任は私にある」と言いながら、具体的に何ら責任をとらず、自称「アベノミクス」に関しても、これだけ「失敗」が明らかなのに、これまでを総括する事も、それをふまえてやり方を検証、修正する事もしないで「道半ば」という無責任な言い訳ばかり。「美しい国」などと美辞麗句ばかり並べて、自らは粉骨砕身する事も無く、「実績」の吹聴と保身ばかり。安倍信者諸氏は「安倍首相がいなくなったら日本は崩壊する！」と狼狽なさっておられるが、この程度の人物がいなくなった位で崩壊する位なら、もう日本は１０回以上は崩壊していますよ。心配ご無用。せめて、「一般社会では普通」の事をキチンと出来る水準の人に国のリーダーをやってもらいたいと切望する。

是非本書は、「安倍晋三 沈黙の仮面: その血脈と生い立ちの秘密」（野上忠興著/小学館）、及び「安倍でもわかる政治思想入門」（適菜 収著/ベストセラーズ）とセットでお読み頂く事を強くお薦めする。安倍氏の「有言不実行」ぶりが、得も言われぬ味わいとともに読者諸氏の胸に刻み込まれる事であろう（笑）。
文藝春秋さん、是非本書を大増刷・大宣伝の上、書店に平積みして下さい。日本中に明るい失笑が溢れる事必至でありましょう。