赤松小三郎ともう一つの明治維新――テロに葬られた立憲主義の夢 の感想
参照データ
タイトル | 赤松小三郎ともう一つの明治維新――テロに葬られた立憲主義の夢 |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 関 良基 |
販売元 | 作品社 |
JANコード | 9784861826047 |
カテゴリ | » 本 » ジャンル別 » ノンフィクション |
購入者の感想
薩摩が土佐を裏切って長州「倒幕」側につく直前に、西郷隆盛の手のもの、のちの陸軍少将桐野利秋こと人斬り半次郎によって京都で暗殺され、歴史から葬られた信州上田松平伊賀守家中の下士、赤松小三郎。
著者が生まれ育ったあの真田の上田に対する愛情が滔々と赤松小三郎に注がれていることが本書を際立った存在にしています。
民衆に対する男女を問わない同じ高さからのあたたかい赤松小三郎の目線が、近代の政治理念として民にとっての最大のものである平等原理と国民主権原理とを見事に憲法構想化し、それが島津久光、松平春嶽、そして徳川公儀に建白されていたことが本書のメインテーマです。その構想体系には現日本国憲法よりさらに進んだものさえ含まれていることが明らかにされています。
そして近江聖人中江藤樹の「すべての民はことごとく天地の子であり人間はみな兄弟である」という旨の、フランス人権宣言より150年も先行する言葉に示される、日本古来の伝統的な価値観に赤松小三郎の先進的な思想の源流があると著者は指摘しています。
中江藤樹と赤松小三郎の存在、これをこそ「日本すごい」と言うべきではないかと思います。そして、この二人の光を隠した日蝕が明治維新であるということになります。いまなお日本を黒々と覆う日蝕・・・。
理系の研究者によって書かれた冷静で含意の深い地味なタイトルの本書は、明治維新を長州過激派武士層によるテロリズムにいろどられたクーデターによる専制的覇権の掌握であるとする点で原田伊織氏による維新本と軌を一にしながら、『明治維新という過ち』とは不思議に異質のものに思えます。
「森林と自然環境」という著者の専門において否応なく向きあうことになる日本の政治経済と、それを生み出した近現代の歴史に対する知的な探究心と鋭い歴史的洞察が本書を生み出したことによるものではないかと思います。誰も知らないといってよい赤松小三郎をよみがえらせる、みずみずしい生命力に充ちた奇跡的な一書なのではないでしょうか。