恋におちて (字幕版) の感想

映画ファンに贈るクリスマス・プレゼントのような珠玉の作品。ニューヨークを舞台に、クリスマスの書店で知り合った男女が、紆余曲折を経て1年後のクリスマスで偶然に同じ書店で再会する。ありふれた不倫ドラマですが、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの素晴しい演技で上質のラブストーリーに仕上がっています。特にメリル・ストリープが素晴らしい。2人とも家庭があり、恋愛経験もある。愛の大切さも、虚しさも、儚さも知り尽くしているからこそ、お互いに好意を抱いていても安易に「愛している」などと口には出せない。デートを重ねるうちに2人の想いは昂まっていきますが、決して一線を超えることはありません。2人の愛は気まぐれな火遊びなどではなく、真剣な大人の恋で、観ている方もエンディングがどうなるのかハラハラドキドキ。ちょっとしたサスペンスドラマです。

鏡の前で衣裳をとっかえひっかえしている自分自身に「いったいどうしたの？」と自問自答するメリル・ストリープはことのほか美しく、まるで恋する乙女のよう。デ・ニーロが友人に「俺ハンサムか？」と真顔で問いただす表情も、これがあのデ・ニーロ？ と思ってしまいます。相手によく見られたいという2人の思いはいじらしいほど。ですが2人ともそれぞれの立場をわきまえており、思い切った行動に出られない。お互い妻と夫を裏切っているという後ろめたさもあり、相手に夢中になる気持ちを理性で抑えようとする。その切なさが胸に迫ります。雰囲気を盛り上げるデイヴ・グルーシンの音楽も素晴らしい。誠実で優しく思いやりのあるデ・ニーロ。そして恋に思い惑う女性を卓越した演技力で表現するメリル・ストリープ。ありふれた不倫ドラマを極上のロマンティックなラブストーリーにしてしまう2人の演技力の凄さ。完全に脱帽です。