繁栄の昭和 (文春文庫) の感想

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参照データ

タイトル繁栄の昭和 (文春文庫)
発売日2017-08-04
製作者筒井 康隆
販売元文藝春秋
JANコード9784167909031
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » た行の著者

購入者の感想

 ようやく文庫になりました。2017年8月の時点でも、短篇集としてはこれが最新。そして、個人的にはいちばん好きですね。
 最初の3編「繁栄の昭和」「大盗庶機」「科学探偵帆村」は、ツツイ流の綺想と実験をふんだんに織りこみながら、江戸川乱歩、海野十三、甲賀三郎、木々高太郎といった「探偵小説家」たちへのオマージュにもなっているそうだけど、乱歩はともかく、ほかの人たちの作品を読んだことのないぼくにはそこはよくわからない。しかし、初期から戦争をはさんで戦後の復興期へと至る昭和、および大正モダニズムの空気を濃縮したような世界に、ふしぎなノスタルジーをおぼえます。
 「リア王」「役割演技」「メタノワール」は、演技(虚構)とリアル(現実)というテーマの追求。中でもっとも私小説的な「メタノワール」がもっともメタフィクショナルになってしまうのは、逆説なのか必然か……。
 「一族散らし語り」は、かつての「遠い座敷」「家」などに通じる、土俗と前衛とが渾然となった異様な世界。ちょっとつげ義春風味もあり。
 ほかに短篇2本とショートコント2篇、巻末に「高清子とその時代」というエッセイ。
 ドタバタやグロテスク趣味は後方にしりぞき、全体に渋めの色調ですが、それだけに深いところに沁みてきます。
 どなたかが「滅びの賛歌」と評しておられましたが、「繁栄」と謳いながらも、すでに失われてしまった世界で亡霊たちが演じる芝居あるいは映画を観ているような、やさしさと悲哀をともに感じる一冊でした。

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