アラバマ物語 [DVD] の感想

人種差別と偏見と憎悪の中で、弱者の側に立つことがどんなに勇気がいることか…。それを身をもって示した父親に対する限りない愛情と尊敬をこめて描く不朽の名作。娘の回想記で綴られる「理想の父親像」はいまや過去のものとなった感があるが、人間の良心とは、真の勇気とは、というテーマは時代と国境を超えて普遍的な意味を持つ。それを見せかけのヒューマニズムで声高に叫ぶのではなく、人々の心に静かに語り掛けてくるのがなによりも素晴らしい。誠実で正義感あふれるフィンチ弁護士を演じたグレゴリー・ペックは、1962年度アカデミー主演男優賞、ゴールデングローブ主演男優賞を獲得し、AFI（アメリカン・フィルム・インスティチュート）による「歴代ヒーロー・ベスト50」の第1位に選ばれた。何度観ても静かな感動を呼び起こす名作中の名作と言っていいだろう。1930年代、古き良き時代の米国南部を髣髴とさせるノスタルジックな雰囲気もいい。

原題は「TO KILL A MOCKINGBIRD」。子供の視点から見た父親の姿と差別や偏見など大人の社会の現実を、誰もが過ごした懐かしい子供の頃の思い出として描く秀逸な感動作である。観終わった後の余韻が素晴らしく、昔から大好きな映画の一つである。冒頭のシーンからとても良くて、懐かしい子供時代にふっと惹き込まれる。父親が大好きで伸び伸びといろんなことに興味を持って、些細な！大冒険をして毎日を当たり前のように過ごしていた子供の頃が懐かしく思い出される。スカウトのように私は活発な少女だったし、アティカスのように父は厳しくも優しい誠実な人柄だった。そして『人には苦労を負うよう生まれついた人もいる』、というような人でもあった。アティカスは苦労するとわかっていても、信念に従って闘うべき時に闘うことができる真の勇気を持った立派な人だ。この作品を観るとスカウトが私の子供の頃にそっくりだと母が笑う。自分でもそう思うし、アティカスもまた父にそっくりだと懐かしい。(もっとも幼い頃は、近所のイジメっ子によく泣かされて帰って、部屋の隅っこで独りおとなしく本を読んでいる、という引っ込み思案なところもあったが）

この作品で語られるアティカスの教えの数々はどれも深くて真っ当で素晴らしい。なかでも一番印象に残る教えはマネシツグミの話だろう。この映画の核心であり、謎の隣人、ブーと共に物語の重要な伏線となっている。今の世界にも必要と思われる学ぶべき大切な教えである。相手の立場に立って思い遣る心、人としての基本の在り方の如何に難しいことか。そしてこの映画には心に残る感動的な名シーンがある。生きるとはこういうことだ、とグレゴリー・ペックの後姿にしみじみと感じ入るような良い場面である。この映画が語る希望を失った絶望の悲しみの先にあるものから、私達は決して目を逸らしてはならないと思う。居たたまれず、頭を抱えてしまうジェムのようであらねばならないだろう。それは誰の身にも起こり得る人生の非情な側面であり、厳しい真実でもあるのだから。

映画の中では、子供たちが中心に描かれています。
子供たちの目線で物語を紐解いていくのですが、内容は人種差別、女性の性衝動、集団心理で
良心を無視してしまう人間の姿、裁判の正義性というか、
正面きって答えを取捨選択できるかというと難しい物事を、描いています。
映画としては、道徳的なラインを追っていて、ものすごく考えさせられて
とても重たい映画であると思いました。