泉鏡花大全 の感想

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参照データ

タイトル泉鏡花大全
発売日2014-01-13
製作者泉鏡花
販売元古典教養文庫
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購入者の感想

もちろん。未だ全部を読んでるわけじゃないけど。とても便利。手元に泉鏡花があって、いるでも読めるなんてありがたい。

彼の言葉の幻術師としての擢んでた天才ぶりは川端、三島の両氏による布教活動によって常識化されたかもしれない。私もいくつかの作品に魅された者の一人として、その目がくらむような芸術的達成に称賛を惜しむものではない。
しかしながら、だ。天才という名辞は、ほかの分野はいざ知らず文学の領野では奇矯さ、あるいは作品のむらっけと無縁ではない。私はここでスウィフトやポーといった名を思い浮かべる。彼らの愛すべき偏頗な思想、ひねくれた人生観、そして読むに堪えぬ多量の駄作の中にひときわ輝く芥中の珠。
この分厚な著作集の劈頭におかれた、略々習作と称すべき作品(作品名は活人形)の、ざらついた文章が半ばにして突如名文に変わるのを見て、私は驚愕した。この人は本当に天才としか言いようがない。そして黒岩涙香、もしくはペニー・ドレッドフル(ヴィクトリア期前後に流行した安物スリラー)を思わせる展開に、全巻を踏破する楽しみに心が躍った。しかしその気持ちはあっけなくついえる。何とも締まらない終幕。以降、ときおり描写の夢幻的な美しさに目を瞠らせられる頁は多々あれど、筋を楽しむ作品は絶えてなくなる。著名な龍潭譚も照葉狂言も私は満足がいかなかった。もちろん美しい場面はとことん美しいのだが。
高野聖でようやく一息か。そこからはぽつぽつと比類なき傑作が混じるようになる。思うに、鏡花は鍾愛すべき数作品の世界に何度も訪れ、一字一句をしゃぶりつくし、それでも飽きがこない、そういう作家なのだろう。
ただ、変な話だが、駄作も読み込んでこそ、という気もする。ちなみに私はスウィフトもポーも全作品を読み、つまらない作との対比で傑作を余計に愛するという、わけのわからない倒錯感を楽しむ。
どこまでも色彩感で幻惑させる豊富な語彙、それのみにつられる形で、現代人がこの膨大な著作集をたのしめるのか、ちょっと疑問に思う。少なくとも、どれほど卓絶した文章家とはいえ、たとえば朔太郎の詩ほどの密度があるわけではない。人物の彫琢も物足りない、ということはせりふの妙味もある程度様式的なものにすぎない。ただし、どんな場合でもこの作家は人を深く傷つけることはないだろう。すなわちすべてが彼の美学に淵源するゆえに、彼の不快とするところのものが描かれることはない。

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