生きている兵隊 (中公文庫) の感想

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タイトル生きている兵隊 (中公文庫)
発売日販売日未定
製作者石川 達三
販売元中央公論新社
JANコード9784122034570
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学

購入者の感想

 本書は十二烈士の甥に当たる芥川賞作家(1905〜85年)が画一的な戦争報道に反発し、1938年1月5日から8日間の南京での取材と4日間の上海取材の後、2月上旬のうちに書きあげ、「あるがままの戦争の姿を知らせることによって、勝利に傲った銃後の人々に大きな反省を求めようと」、一部伏字で(本書の傍線部)『中央公論』3月号に発表した、南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作である(翌日同誌は「反軍的内容」ゆえに発売禁止となり、作者は起訴され禁固刑を宣告された)。本書の前記には、検閲ゆえに「未だ発表を許されないものが多くある」ため、「実戦の忠実な記録ではな」いと断り書きがあるが、「作中の事件や場所は、みな正確である」と本人が回想しているという(半藤一利解説)。本書は、太沽から寧晋、大連、そして揚子江を遡上して支塘鎮、古里村、常熟、無錫、常州、丹陽、湯水鎮を経て南京に進軍した高島本部隊に焦点を当て、彼等による食糧の現地徴発=掠奪や、民間人への暴行・虐殺を表向き「正当な理由を書きくわえ」て叙述すると共に、兵士たちの戦場生活における「人間として」の心の葛藤を細やかに描く。たとえば、筆まめな倉田少尉は真剣な苦悶の末、「敵の命を軽視することからいつの間にか自分の命をも軽視するに至」り、堂々たる軍人となってゆく。笠原伍長は戦友への愛情のほかは、淡々と自分の業務をこなしたが、それは乱暴と紙一重であった。他方、医学士の近藤一等兵は安易に悪く戦場馴れした結果、怠惰な兵となる一方、発作的に残虐行為に走る傾向を持った。平尾一等兵もそのロマンティシズムの崩壊に際しての狂暴な悲鳴として、やや自棄的・嗜虐的な勇敢さと大言壮語癖を身に付けた。このように本書は、「普通の人間」が戦場において残虐行為に走ってしまう心理状態について、的確に描写をしており、その意味で一読に値する本である。

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