Gettysburg Address (English Edition) の感想

　世界史の教科書にたいてい取り上げられているリンカーン米国大統領のゲティスバーグ演説を絵本にして幅広い読者の許に届けよう、という出版人の気概は貴重である。

　歴史に残る名演説といっても、英語のテクストでは２７２語、わずか３分間のスピーチに過ぎない。絵本にするのに手頃な長さ。たしか岩波文庫版の翻訳ではたったの２ページだった記憶がある。それだけ中味が濃い。

　マイケル・マカーディの版画による白黒の挿絵は、一見して黒々としていて陰鬱な印象をあたえるかもしれない。実際、好みが分かれそうだ。しかし、この説得力にみちた重厚なたたずまいには、誰もが圧倒されるのではないか。

〈私たちのまえにのこされているおおきな困難に、今、身をささげるべきは、むしろ私たちなのです。――誉れある死者たちから、私たちは、かれらが最後の最後まで身をささげた理想に対する、いっそうの献身を受け継がねばなりません。〉

　詩人の長田弘の翻訳は、総ルビが振ってあって読みやすいが、リンカーンが書いた原稿そのままの文章なので、低年齢のこどもに読ませるにはちょっと難しいような気がした。中学生以上が対象といったところか。