スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業 の感想

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序章から第3章までと第5章は主流・異端を含めた多様な経済思想の歴史を取り上げ、第4章と第6章はアメリカ・ドイツ・フランス・日本の戦後経済史を詳細に解説しています。文章は平易でわかり易く、数式を一切用いていないので、経済にある程度知識があれば、スムーズに読み進めることができます。
本書を読みとおすと、あらためて経済の発展には倫理と企業家精神が不可欠なこと、経済を考えるにはそれぞれの国の歴史・文化・社会にも注意を払う必要があることを実感させられます。このあたりは大学の経済の授業でも余り詳しく習わないところなので、新鮮で興味深く読みました。経済思想について知りたいが、原著をあたるのはちょっとめんどくさいし、さりとてマンガの入門書ではちょっとという方に向いているのではないでしょうか。もっと詳しく知りたい読者のためには、充実した参考文献リストも巻末に掲載されています。
著者はもともと中国経済のエキスパートなので、各章末のコラムでは、経済思想や経済史の観点から中国経済を分析しています。この部分は大変ユニークな中国論となっており、中国経済に新たな視点を提供してくれます。百年以上前の経済思想であっても決して「過去の遺物」なのではなく、今日的な問題と極めて密接に結びついていることがよく分かります。
この様に、本書は300ページ強の分量ながら、様々な経済社会に関する知識が集約されています。最近の出版の傾向としてリベラルアーツ関連本の復権が目立っています。はっきりいって玉石混交、なかにはどうかと思う水準の本も混じっていますが、本書は良心的かつ信用できる入門書の一つとして、一読に値する一冊といえるでしょう。