翻訳と日本の近代 (岩波新書) の感想

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タイトル翻訳と日本の近代 (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者丸山 眞男
販売元岩波書店
JANコード9784004305804
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

 日本戦後派知識人のビッグツー、丸山眞男と加藤周一のお二人による、いやになるくらいの教養と学識がみなぎる「翻訳」-とくに法律用語に関する部分に紙幅が割かれているー大きくは「言葉」をめぐる対談。

目次

Ⅰ:翻訳文化の到来
Ⅱ:何を、どう、翻訳したか
Ⅲ:「万国公法」をめぐって
Ⅳ:社会・文化に与えた影響

 時に重い話題もありつつも基本的にお二人は無邪気と思えるほどに楽しそうに語り合っておられますが、お二人の学識水準が高いのでいかんせん明治の開国近辺の歴史(出来事のみならず、活躍した人物)に対する一定以上の知識、また人文的基礎知識(モンテーニュや孔子、ルソー、司馬遷などをある程度知っている)がないと話についていけません・・。私は加藤さんの『日本文学史序説』を読んだ後だったので荻生徂徠とか東涯とか富永仲基にうっすら免疫がありましたが、日本史の知識を補充していなかったら置いて行かれてる感が半端でなかったと思います。引用される資料が一般人からすると泣きたくなるくらいマニアック(個人的に『玉勝間』でもギリなので『三五歴紀』とか『維氏美学』が話題になると死んだ魚のような眼になってしまう)。

 現代は、明治期に比べると外来語を漢語をもとに「翻訳」するということが少なく、そのまま用いるのが普通という感覚になっていますが、そのことで得るものと失うものや、当時と今の国際感覚の差異などを考えさせられました。
 また、福沢諭吉と中江兆民の両雄について語られた箇所では以下の言葉が心に残りました。

丸山「福沢の言葉では両面作戦です。『実学』という言葉は、朱子学でも心学でも使っている。日常実践の学が本当の学問で、学者の空論はいけないのだという意味で使っているわけです。福沢の場合、『学問のすすめ』のはじめの節だけが有名になったので、日用実践のみを唱えて、それ以外は無意味だととらえていたようによく誤解されていますが、そんなことはない。初期から空理空論の大切さを言っています。『虚学』という言葉を使って。そしてその『虚学』の上に、高尚なる学問を築くのだと。高尚という意味は、直接役に立たないという意味に読めるのだけど。」

 明治政府のとった「翻訳主義」を巡る問答集。

 本書の生まれた経緯が面白い。『日本近代思想大系』(1988〜1992年 岩波書店)中の1冊、『翻訳の思想』(加藤周一・丸山真男(編) 1991年 岩波書店)の編集過程において、体調を崩した丸山が解説の執筆を加藤に一任、加藤は丸山の体調の良いときを見計らって、自らの考えを丸山にぶつけてみる機会をもったのだそうだ。数回に渡るそうした会合の内容を録音したテープの中から、「翻訳」に関連する部分を抜き出したものが本書。

 教養ある2人による、純粋に知的な関心に基づいて行われる知の交流の様子は実に面白い。本当に楽しそうに伸び伸びと語り合っている。「時代背景」「どんな本を翻訳したのか」「訳語の問題」「その後の日本社会に与えた影響」といった大まかテーマはあるが、2人の興味の赴くままに語り合っているためか、何か結論めいたものが導き出されるわけではない。私としてはむしろ、何とか話の流れに乗り遅れないようにして、2人の興味関心のほとばしりそのものを楽しむようにして本書を読んだ。

 本書によると、明治初期には既に「どれを読めばいいのかわからない」というほど大量の本が翻訳されていたのだそうだ。2人が驚くのは、どう考えても「すぐ役立つ実用的な本」とは考えられないような本までもが大量に翻訳されていること。明治の知識人は、ヨーロッパ文明を相当深いところから「日本語で」学んだらしい。0

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