アートで見る 医学の歴史 の感想

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歴史的医学図といえば、怪しい古代のガレノスの解剖図〜16世紀のヴェサリウスの解剖学にいたるのが普通であるが、本書に出てくるのは、驚くことに、インド・アーユルヴェーダの解剖学、チベット・ネパールの解剖学、ペルシャの解剖学、中国や日本の鍼治療経路図など・・・全く異なる文化圏、全く異なる世界観、身体観から生まれた（西洋医学とは全く異なる）医学治療世界（薬学、薬草学）の実に面白い図譜を多く見ることができる。世界中で多様な考えを人間は持っていたことが分かる。さらに、占星術、錬金術、呪術などの医学の範疇には入らない周辺学、瀉血人体図などの医学思想にもとづく医療のための図譜も載っている。現代の医学から考えれば、奇妙で誤りに満ちているが、世界中のあらゆる時代と文化で生まれた医学観を貴重な図版で見ることが出来る。しかし、本書を繙く前に、表紙裏の特大の図版が、歌川国芳「きたいなめい医　難病治療」なる浮世絵がすごい。そこには奇態な名医の図譜でいっぱいなのである。以上の歴史的な図版でも充分貴重で興味深く読めるが・・・本書では、現在の最先端医学医療の世界が、最先端顕微鏡（各種電子顕微鏡、偏光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡）技術を駆使してとられた写真、映像、画像も見せてくれる。たとえば、HIVウィルスがリンパ球から放出される瞬間の写真、HIV粒子の詳細な内部構造を低温電子撮影法明らかにした映像、各種ガン細胞が増殖していくさまをとらえた画像、卵子の表面に群がる精子が競争して卵子の中に潜りこもうとする瞬間の写真など、驚異的で多種多様な貴重な画像、映像が世界中から集められて載っている。
本書は出版会社などでは作成は不可能であろう。実際には、ヒトゲノム計画などに資金を提供したウェルカム財団のメセナ 事業による。当財団は数兆円規模の資金を文化事業、研究事業につぎこんでいる。だからこそ、この価格で貴重な記録を我々は手に取って見ることが出来るのだと思う。
興味のある方は是非どうぞ。