Mightier Than the Sword (The Clifton Chronicles) の感想

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前二作で失速気味だった「アーチャーらしさ」が本巻では復活。
クリフトン一族に降りかかる試練の数々がアーチャーらしい洗練された語り口で紙面上に展開される。　3巻と4巻のあのもたつきぶりは一体何だったんだろう、と思わざるを得ないほどのキレの良さ、変わりようで、読んでいて早く次のページが読みたいなと何度も思うほどで、ついつい何度も夜更かししてしまった。

本5巻は処女航海に出かけたバッキンガム号に乗るハリーとエマの部屋に仕掛けられた爆弾の処理の話から始まる。　そして前巻から続くレディー・ヴァージニアが起こした名誉棄損裁判をはじめとしてクリフトン一族（Harry,　Emma、Sebastian,　Gile）が巻き込まれていく数々の事件や、企み、出会い、陰謀などが本小説の主要な登場人物の名前を冠したチャプターの中で語られていくスタイルをとっている。　　
全体の筋立てとしてはGileとの結婚・離婚騒動以来クリフトン一族に並々ならぬ敵意を燃やすレディー・ヴァージニアの陰謀や企みが大きな柱となって全体の物語を動かしている。第4巻では喜劇的立ち回りを演じたヴァージニアだが、この第5巻では喜劇的な部分を消し去りズル賢さを備えた悪役として登場。　ぐっと存在感を増している。
後半部分は1970年に起こったドラマを重ね合わせたストーリー展開であり、登場人物名が冠されているチャプターとは言えひとくくりのものと考えても差し支えない。　ただ、最後のHarry & Emmaの章は英国とソ連でのそれぞれの裁判シーンが同時進行で交互に描かれており構成の巧みさが際立つ。さすが当代きってのストリーテラー、読んでいて飽きることがない。
新旧さまざまなドラマが本編では語られ今後につながっていくのだが、恋人がSebastianのもとを去るエピソードとSebastianが許しを乞うために再びNYを訪れるも再会することなく帰国するあたりは胸にぐっとくるものがあった。

本作にはアーチャーの小説らしく貴族の国イギリスならではの伝統や風習など（特に裁判、選挙活動や議会内での習慣）を描いたシーンも何箇所か出てきて非常に興味深い。　また、小説の中でアーチャーが語っているのが日本の武士道にも通じる英国の伝統的貴族価値観だ。