私たちはどう生きるべきか (ちくま学芸文庫) の感想

本書は書名の通り、「どう生きるべきか」という倫理についての本である。
単行本の初版が発行されたのは1993年であるが、その主張は現在でも色あせない。

本書の主張は以下のような内容である：
　・現代の人類が行っているような無制限の私利私欲の追求は、地球環境の破壊をもたらし、持続できない。
　・私利私欲の追求は、幸福をもたらさない。
　・自分のためではなく、人類全体・動物全体のために行動することで、人生の意義と充足感が得られる

これらの内容は、最近の思想書・哲学書にはよくある考え方であるが、本書はていねいで飛躍のない文章でこれらの主張が展開されており、類似本と比べてきわめて読みやすく理解しやすい。

また、実践的な倫理を推奨している点も本書の特長である。
私益を完全に否定するような倫理的指針は、聖人にしか真似できない倫理であり、単なる建前になってしまうとして否定する。
それよりも、私益と折り合いをつけながら、小さなことでも良いことをするのが倫理的であるとする。
この点も、現代の多くの人に受け入れられやすい点であると思う。

なお余談だが、本書ではアメリカ人を「私利私益だけを目的として他人と争う人々」として描いているのに対して、日本人を「自分の属する会社組織の利益を目的とし、私利を捨てて他の組織と争う人々」として描いている。
今日の日本と日本人の状況を考えると、これはいささか時代遅れに感じるが、本書が書かれたのはまだ日本にバブルの余韻が残っていた頃であるから、当時の印象としてはこれで正しかったのだろう。