本当の大人の作法 価値観再生道場 (ダ・ヴィンチブックス) の感想
参照データ
タイトル | 本当の大人の作法 価値観再生道場 (ダ・ヴィンチブックス) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 内田樹 |
販売元 | メディアファクトリー |
JANコード | 9784840151269 |
カテゴリ | ジャンル別 » 人文・思想 » 倫理学・道徳 » 倫理学入門 |
購入者の感想
雑誌『ダ・ヴィンチ』連載の鼎談。話題は多岐にわたるが、最近の風潮である、揚げ足取りの言葉の氾濫やネット言論の暴力性など、言葉をめぐる考察が大きな比重を占める。「生きることの本当の豊かさというものは、金銭ではなく、人とつながっていることにある」(p34)のだから、人と人がつながる媒体である言葉が攻撃的なものになるとしたら、それは人と人とのつながりを貧しくしてしまう。言葉というものは、もともと攻撃的になりやすいものである。言葉を語る側は、それを取り巻く前提や関連の条件をすべて語ることはできないので、言葉を語ることは、どんな場合でも一種の“省略形”にならざるをえない。一方、聞く側は、いつでも相手の言った言葉を相手の意図やコンテクストから切り離して、断片的に自立させることができるので、「相手に対する共感性がないといくらでも揚げ足をとれるシステムなんです、言語システム自体が」(54)。そしてネットは、“匿名性”の蔭に隠れて、言語の攻撃性をもっとも有効に使える言論システムである。「日本人が<見ず知らずの人>に対して、これほど攻撃的な言葉を吐きつけるようになったのは有史以来初めてのこと」(189)だろう。このようなバーチャルなネットだけの攻撃的人格が、実生活の人格から分離して成立することがどのような帰結をもたらすかはまだ見定めがたいが、「それは<リアルな自分>の生きる力を弱めるだろう」と内田は言う(195)。あと一点、「早婚」についての洞察も鋭い。伝統社会では階級が固定し、誰もが親の職業を踏襲したから、別の職業に就くための努力や自分探しは不要で、人々は早く家族を作るために早婚だった。だが、現代社会では、特に女性は、自分の職業や社会的自我が確立するのに時間がかかるので、その妨げになる結婚や出産はなるべく遅らせる(144)。「晩婚」は先進国の必然なのである。