方法序説 (岩波文庫) の感想

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タイトル方法序説 (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者デカルト
販売元岩波書店
JANコード9784003361313
カテゴリ人文・思想 » 哲学・思想 » 西洋思想 » 西洋哲学入門

購入者の感想

  ウィトゲンシュタインは、哲学のむずかしさを「何かを断念する困難さ」だと言っている。彼のことばでいえば、「哲学は、涙をこらえたり、怒りをこらえたりするのと同じくらい」むずかしい。
 そしてこれは哲学書の「難解さ」とはてんで別の話だ。何故哲学書が「解り難い」かといえば(実に多い日本語未満の翻訳を別にすれば)、他の哲学書をやっつけようとするからだ。そのために自分以前の哲学の要約や曲解、批判や中傷を、哲学書の中に組み込むことになり、うじゃうじゃと入り組んだものになってしまうのだ。
 西洋の中世あたりには、「自分以前の哲学」は、「問題」の形になっていた。あらかじめ「問題」が用意されていて、これらの「問題」を考えることだけが、本当に考えること(哲学すること)とされていた。デカルトはそんなことはやらなかった。そうすることが「哲学すること」だとしたら、そんな哲学を「つづける」ことなどデカルトはしなかった。デカルトがやったのは、「つづける」こととは反対に、「はじめからはじめる」ことだった。
 彼は問題についての思考なんかでなく、自分がどうやって「本当に考えること」をはじめたか、どうやって「はじめる」に至ったかを書いた。「どうやったか」が彼の哲学であり、それ故にこの書には「方法」の名が与えられるだろう。
 デカルトの「方法」は「難解」ではない。そして同時にそれは涙をこらえるとの同じくらいに「むずかしい」。なんとなれば、デカルトの懐疑は、「はじまり」にまで一旦立ち戻るために、うざったい伝統的哲学はおろか日頃親しみ慣れたものごとについてまで、不断の断念を(それは同時に決断でもある)を要求するからだ。

 この本は今から370年ほど前に著されたものですが、近代学問思想の原点が示されている古典です。
 もともと、当時のいわば先端科学技術に関する主著である「屈折光学」「気象学」「幾何学」の序として著されたもので、デカルト自身が、「この序説が長すぎて一気に読みきれないといけないから六部に分けてある(そんなに長いとは思えないのですが)」、と書いてあるほどですから、何が書かれているかは比較的容易に理解できます。
 しかし、その内容は、広く「何が真理で何が偽物なのか」について考えるための思想書で、その中身は、近代哲学の原点を含んでいるともいえると思います。
 本書の性格上、デカルト思想のダイジェスト的なものですので、その思想をさらに深く理解するには、或は、書かれていることの根拠を知ろうと思えば、「省察」などデカルトの別の著書を読む必要があると思います。
 例えば、数学を用いて物理学を研究すると何故真理に到達しうるのか、とか、何故(誠実な)神が存在すると信じるのか、とか、諸々ですが、その場合においても、結局デカルトは何がいいたかったのか、或は逆に、そう考えようと思ったのは何故なのかを知るための、ガイダンスとしても役立つと思います。

本書で提唱されている「方法」は現代人にとっては当たり前のものになっているために、本書の価値は現代ではそれほど高くなくなっているのかもしれない。だが、あの時代にこの本が書かれたということは我々には想像できないほど大きな事件だっただろうし、デカルトが偉大な哲学者で近代哲学と近代科学の基盤を作ったことは確かなので、デカルトをいくら称賛しても、し過ぎるということはないだろう。

もっとも、私にとっても、本書で神というものが世界を創ったことが自明であるかのように語られていたり、徹底的に懐疑的な思考を維持していたデカルトが、魂の存在についてはチェックが甘かったりしている点はおかしいと思っている。しかし、カトリック教会とは異なる説を述べれば火炙りにされることもあった時代のことである。本書の短所ではなく長所に目を向ければ、それだけで、「我思う故に我あり」という言葉とともに、デカルトの存在が哲学界で不滅だということが分かるだろう。

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