現代語訳 武士道 (ちくま新書) の感想

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参照データ

タイトル現代語訳 武士道 (ちくま新書)
発売日販売日未定
製作者新渡戸 稲造
販売元筑摩書房
JANコード9784480065650
カテゴリ人文・思想 » 哲学・思想 » 東洋思想 » 東洋哲学入門

購入者の感想

本書は「武士道」と題されているものの、武士の規範について書かれているだけではない。この本を記すきっかけとなったのが、ベルギーの法学者から「宗教教育のない日本でどうやって道徳教育が授けられるのか」との問いであったことから分かる通り、本書は日本人の拠って立つ道徳意識や思考方法を述べている。

「義」「仁」「礼」「信」「名誉」「忠義」などのキーワードにそって稲造の解説が進むのだが、どの解説にも西洋の偉人・思想家や、シェイクスピアの戯曲の一節などが引用されているのが目を引く。本書の読者層である欧米人を意識して、いかに彼らに分かりやすくするために腐心したのかが、よく分かる。(それにしても、西洋思想・文学に深く精通していた稲造の博覧強記ぶりには恐れ入る。)
また、章から章へのつなぎ方が秀逸。武士道の影響について語った章で、大和魂を美しくはかない桜に例え、章の最後で「日本の魂はそれほど脆く滅びやすいものなのか」と投げかけ、『武士道はまだ生きているか』という次章に続く。これでは、読む手を休めることの方が難しい。

本書の内容に戻ろう。ワタシが本書の中で最も印象に残った点を挙げたい。
それは、上記キーワードの中の「名誉」と「忠義」に関する解説だ。ここで言う「忠義」とは主君や目上の者に闇雲に服従することではない。武士道では、自身の良心を主君の奴隷とすることを求めていない、即ち自身の命を主君に捧げることは厭わないが、自身の名誉は守るとしている。これを代弁するものとして、英国の詩人トマス・モウブレイの詩を挙げているので、少し長いが引用しよう。(これも稲造の博覧強記の一例)

恐ろしい主君よ、私の身体をあなたに捧げます。
私の生命はあなたの命令のままですが、私の恥は違います。
生命を棄てるのは私の義務ですが、しかし私の美しい名は、
たとえ死んでも、私の墓に生きて行きます。
暗い不名誉なことに使ってはいけません。

生命は主君に仕えるための手段として考えられ、その理想的なあり方として「名誉」が重んじられていたのだ。

最近、よく耳にする武士道の精神とは何なのか?
江戸時代の武士とはどのような倫理道徳観をもって生きていたのか?
日本人としての考え方、生き方の参考になるのではないか?
「人を斬るこわい人」というイメージを持つ武士像を子どもに、道徳教育も含めわかりやすく還元する方法に役立つのではないか?

このようなことをきっかけにこの本を読んだ。

新渡戸稲造は、1984年から発行された5000円D号券の表面に描かれていたことで有名だ。
彼は明治時代、江戸時代の武士の精神構造に本能的に組み込まれていた信仰ともいうべき武士道を通じで、それまで誤解されていた日本人像を外国人に紹介した最初の日本人である。

鎖国体制が続き、諸外国との交流や交易が少なく、「人を斬る」「容易に切腹する」など誤解されていた武士像を、新渡戸は「BUSHIDO」を書き、外国人に紹介することによって、武士ひいては日本人や、日本の文化を理解させる第一歩を作った功績は本当に大きい。

「BUSHIDO」は「日本人の説明書」と言ってしまえば、新渡戸の功績の前で恐縮だが、わかりやすくいうのならばそういうことであろう。

彼は武士道の衰退を必然であると感じたころから、キリスト教に帰依するようになったが、
ある知り合いの若い人物が「新渡戸はクリスチャンでありながら、日本の5000円札に描かれたことはすごい」と言っていた。

仏教、儒教信仰のある日本で、クリスチャンの新渡戸が紙幣の肖像画を描かれるという違和感は、彼の国際人としての遺してきた功績、諸外国からの知名度を前にするとそれほど国として意識することはなかったのだろう。

新渡戸がなぜ紙幣に描かれたか私はこう考える。

D号券発行当時はまさに日本経済は世界中を席巻しており、「円」の国際化が意識されはじめた時代であった。折しも翌年はプラザ合意の年であり、円高時代に突入するわけだが、日本人を世界に知らしめる最初の土壌を作った新渡戸を紙幣の肖像に登用することに、諸外国に円の国際化を進めていく国家の戦略をイメージされるような意義があったのではないだろうか。

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