評伝・河野裕子:たつぷりと真水を抱きて の感想

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タイトル評伝・河野裕子:たつぷりと真水を抱きて
発売日販売日未定
製作者永田 淳
販売元白水社
JANコード9784560084557
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 詩歌 » 詩論

購入者の感想

5年前の8月に亡くなられた歌人・河野裕子さんの評伝が早くも上梓された。著者は河野裕子さんと永田和宏氏の長男・淳氏である。本書を手にするのは、河野裕子さんの歌集やエッセイ集に親しんでいる人であろうから、多くの読者は彼女の人となりや経歴、作品、あるいはご家族の状況の大よそは理解していることだろう。しかし、著者は河野さんの両親の係累や彼女が育った家庭環境、交友関係にまで遡って調べあげ、詳細に記述することで「河野裕子がいかにしてつくられたのか」その根源を明らかにしている。

興味深かったのは河野さんの幼少時代である。熊本の郊外、次に滋賀県の石部という田舎町で呉服の行商を生業とする両親のもとで育った。母が子供の頃に使った色褪せた靴袋を持って通学するような貧しい生活だったという。無学であるが額に汗して働く両親を見て河野さんは労働の尊さや親の偉大さ、家族の結びつきを胸に刻んだ。そして、緑豊かな自然の中で植物や虫や動物への愛情と観察力を研ぎ澄ませていったのである。この時期に河野さんの豊かな感受性が育まれたことがよく理解できた。

永田和宏氏と知り合い結婚してからの歩みは、歌やエッセイにおいて河野さん自身が語られている通りである。それが長男の目から見た様が記述されると、河野さんの素顔が生々しく浮かび上がってくる。いつも忙しく動き回り、煮物料理が得意で、花鳥虫を愛し、野良猫までも可愛がり、毎週クルマでプールに通い、食卓で歌を詠み、原稿を書く、戦後の女流歌人のトップランナーであった。このような人だったからこそ、あの歌が生み出されたと深く胸に落ちた。

ガンが発見された時に夫と子は「隠すべきだ」と河野さんを説得した。しかし、「歌が濁る」とそれを拒否して河野さんは疾患を公にして限られた命を生きる道を選んだ。この闘病の10年は愛と悲しみがぶつかる家族にとって辛い日々であったという。河野さんとの最後の別れは永田和宏氏も書いているが何度読んでも胸が詰まる。

さみしくてあたたかかりきこの世にて会ひ得しことを幸せと思う

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