進化の謎を数学で解く の感想

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参照データ

タイトル進化の謎を数学で解く
発売日販売日未定
製作者アンドレアス ワグナー
販売元文藝春秋
JANコード9784163902371
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 生物・バイオテクノロジー » サル・人類学

購入者の感想

 植物学者であり遺伝学者でもあったユーゴー・ド・フリースは、かつてこう述べたといわれる。「自然淘汰は最適者の生存を説明できるかもしれないが、最適者の到来(arrival of the fittest)を説明することはできない」。
 自然淘汰による進化というアイデアにしたがえば、たしかに、優良な形質(表現型)が集団中に広まっていくことは説明できる。しかしそもそも、その優良な形質というものはいかにして登場するのか。換言すれば、生物における新機軸(イノベーション)はどのようにして生まれるのか。進化論の根幹とも関わるこの謎に、本書は果敢にも挑戦していく。
 一見すると、いまの謎は解決済みであるように思えるかもしれない。すなわち、新機軸を生み出すのは、遺伝子におけるランダムな突然変異ではないか(学校でもそう習ったではないか)、と。しかし本書の著者によれば、そのように応じてみても、ここでの答えとしては十分ではない。というのも、タンパク質の潜在的な組み合わせの数は超天文学的であり(わずか100個のアミノ酸をもつタンパク質でさえ10の130乗通り!)、あくまでもランダムな変異のみでそのなかから適当な解を引き当てるのだとすれば、そのためにこれまた超天文学的な時間がかかってしまうからである。それゆえ、先の謎を解決するためには、ランダムな突然変異以外の何かがさらに必要となる。では、それは何だろうか。

生物の進化は、単純化すると次のような段階を踏む。
(1)まず新しい変異が生じ
(2)そのなかから適者が生き残る。

(2)は常識的に分かるが(自然淘汰と遺伝)、(1)は自明なことではない。
遺伝子の変異はたいてい死や病気をもたらすし、動物の眼や脳のような精妙な器官が
突然ないしランダムに生じるとは信じられないからである。
科学がそこを説明できないと、神の計画や自然の目的がいつの間にか復活してしまう。

本書は(1)の説明に挑戦した本である。
結論をいえば、その目論見は半分成功しているように思う。

本書が提示するメカニズムは、次のようなものである。
多数の要素がネットワーク的に相互関係を持つと、その関係のあり方は指数的に増える。
その中で有意味な(環境に適合して生きられる)関係のあり方が生じることは稀なのだが、
母数となるネットワークの数が超天文学的に多いので、有意味な関係も実は多数ある。

遺伝子自体はランダムに変異する。多くは無意味な変化だが、稀に、新しい有意味な関係に
たどりつくことがある。確率的には稀だが、母数が多いので、多くの変異が誕生する。
その積み重ねによって、多様な生物が進化してきた。

上記の説明は、量子力学の多世界解釈や、仏教の華厳の世界観にちょっと似ている。
あらかじめ論理的に可能な選択肢が無数にあり、生物はその一部を試行しているのだと。

なるほど、と思った。ちょっと感動的でもある。
でも、半分の疑問が残った。
上記の説明が本当なら、もっと多様な生物があり得たのではないか。
眼が5つあったり、脳がお尻にあったり、どうしてそんな生物はいないのか?
(カンブリア紀にはいたかもしれないが)。
そこには、あらゆる可能性の中から一定の類型だけが生き残る制約の論理が
あるはずだが、そこが謎として残った。

とはいえ、斬新な発想をコンピュータの計算で論証するという著者の方法は素晴らしい。

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