英語の害毒 (新潮新書) の感想

　昨今、英語で外国人と会話によるコミニュケーションをとることの大事さが叫ばれ、「英語教育の早期化」や「読み書きよりも、会話中心の英語学習」を求める風潮が蔓延する中で、そのような「常識」に異を唱え、重要な問題点を指摘している本です。

　内容的には、少しエキセントリックですべてを鵜呑みにするのは危険な部分もあります。（たとえば、これからは英米のパワーが落ちていくから英語の重要性が下がっていくとか、機械翻訳が技術的に進んでいくから英語会話の能力の重要性は低下する、など）
　しかし、たとえば次のような主張には深く同意せざるを得ません。
(a) 日本人のすべてが英語が必要なわけではないので、他の貴重な学習時間を削ってまで英語を全員が学ぶ必要性には疑問があること
(b) 幼少期からの会話中心の英語学習では、ありきたりな日常会話程度の「会話言語力」は身についても、高度で抽象的な内容が伝達・理解できる「学習言語能力」は身につかないこと
(c) 「学習言語能力」が身につかない場合、政治・経済の議論を行うとか、本や新聞記事や論文を読んだり書いたりするとか、自分の主張を論理的にまとめて発表するなどの高度な言語力が身につかないので、政治やビジネスで英米人の使用人にはなれても、重要な仕事はできないこと
　また、(d) 英語を学び、アメリカ発の英語情報ばかりに接していると、アメリカに有利な情報や考え方に洗脳されてしまい、多様な視点を失ってしまう、という点も重要です。

　本書は、昨今の「英語一辺倒」の風潮に反省を促す貴重な本です。やや偏りのある本ですが、上記以外にも多くの重要な指摘が随所になされている本です。
　立場や考え方により、人によっては同意できない部分も多い本かもしれませんが、一読の価値はある本であり、必読の本と思います。