だりや荘 (文春文庫) の感想

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参照データ

タイトルだりや荘 (文春文庫)
発売日販売日未定
製作者井上 荒野
販売元文藝春秋
JANコード9784167737016
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » あ行の著者

購入者の感想

だりや荘という信州らしき土地のペンションが舞台になって、美しい姉妹、椿と杏を取りまく恋愛模様が、静かに心理劇のように展開していきます。
早くから、杏が、姉と夫・迅人の関係を見抜いていることが読み手に向けて明かされるのに、物語は静かに進んでいきます。こういう不倫の恋愛にありがちな、憎しみや嫉妬の感情がほとんど書き込まれないのが特徴的で、それゆえにいっそう、読み手は引きこまれてしまいます。僅かに、悔恨の情が滲みでるくらいのもので、それも相手に向けて告白するのではない、独白なので、表面上は、登場人物たちの感情のやりとりはありません。
美人の姉妹、姉と関係する杏の夫・迅人、途中からだりや荘でアルバイトをすることになった翼の、4人の恋愛模様の絡み合いが、微妙に交錯し、美しい信州の自然を背景にして、淡々とペンションの日々が描かれるだけに、杏の内面の葛藤が緊張感をもって、こちらに伝わってきます。
時々“発作”をおこして、喋ることができなくなる椿と、姉と夫との目線や、行動の端々に逢い引きを重ねていることを敏感に感じてしまいながらも、沈黙を続ける杏の、どちらが先に壊れてしまうのか、どきどきしながら読みました。
のめり込んでゆく二人に、どうやらピリオドを打つ潮時がきたようだということを、仄めかせて物語はラストに向かいます。心の暗部が激しい言葉を伴わずに、こちらの気持ちに入り込んできます。「愛」の虜になった人間の、もう引き返せないという切羽詰まった気持ちは、椿や迅人だけでなく、もう一人の、新渡戸さんという登場人物が暗示していました。新渡戸さんがとった行動は、物語の本筋とは絡まないだけに、ちょっとしたインパクトがありました。
美しく設定された物語の、静かに流れる日々の底にあるものが、異様に浮かび上がってくる、心理劇のようで、お終いまで目が離せませんでした。

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