刑法入門 (岩波新書) の感想

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タイトル刑法入門 (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者山口 厚
販売元岩波書店
JANコード9784004311362
カテゴリ社会・政治 » 法律 » 司法・裁判 » 刑法・訴訟法

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犯罪を構成する条件は何かという一点を追究した、理論面からの刑法入門。単純な犯罪ではなく、複雑な要素が絡み合い判断に苦しむような事例を、どのように一般的原理から説明するか。これが、刑法学の課題である。著者によれば、1970年代頃から、刑法の犯罪観は大きく変容し、犯罪を「倫理違反」として捉える視点から、犯罪を「利益侵害」として捉える新しい視点へと移行した(p32f)。これが、本書を貫く通奏低音である。犯罪を「倫理違反」ではなく「利益侵害」とみなすことは、刑事裁判の判決の多くに直接影響を与えるものではない。しかし、複雑な境界事例の判断には大きな影響を及ぼす。著者はそれを、誰も被害者がいない「わいせつ物販売罪」は妥当か(p35f)、福岡県青少年条例をめぐる最高裁判決において、多数意見の「淫行」観の不自然さを批判した伊藤正巳判事の反対意見(p95)、そして、毎日新聞西山記者が外務省の蓮見事務官と「情交」を結び、外交機密を漏洩させた外務省秘密漏洩事件(185f)などについて解説する。特に、外務省秘密漏洩事件の最高裁決定に対する著者の批判は、力がこもっている。その要点は、西山記者が蓮見事務官を「性的に誘惑」して機密を得、その後彼女を捨てたのは「個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙し・・・社会観念上是認できない」という理由で西山を有罪にしたのは、「利害侵害」ではなく「倫理違反」を根拠にしており、理論的整合性を欠くという批判である(p199f)。西山と蓮見の「情交」は大人の男女間の倫理問題であり、倫理は刑事罰を加える論拠にはならない。「女性を誘惑した西山はけしからん、機密を渡した後に捨てられた蓮見さんは可哀想」という国民の「良識」におもねる判決なのである。

新書の役割は専門的な事柄をずぶの素人にも解るように、そして最先端のことを平明に書いて読者に提供することにあります。そうでなければ新書の意味をなさないからです。本書は現在における犯罪について刑法はどの様に成り立っているのか、犯罪の成立、刑罰などについて書かれています。新書ですから著者自身の理論を展開する場所ではないので、あっさりとした内容の物になっていますが入門としては充分な知識を与えてくれています。本書を読み終えた上で、興味を持たれた方は次のステップに移る。これが新書の役割でしょう。本書では見事にそれが完遂されています。巻末に3冊+2冊の本を参考文献としてあげていますが、著者自身の本を挙げていないところが、共感を呼びます。何も刑法なんか知らないと言う人にはうってつけの新書です。0

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