映画とは何か(上) (岩波文庫) の感想

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タイトル映画とは何か(上) (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者アンドレ・バザン
販売元岩波書店
JANコード9784003357811
カテゴリジャンル別 » エンターテイメント » 演劇・舞台 » 演劇

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『カイエ・デュ・シネマ』の創刊者にして、トリュフォーの師としても名高いバザンの映画論が文庫版に新訳された。1950年代の論考が中心だが、「ヌーヴェル・ヴァーグの父」と言われるバザンの考察は、映画の本質を突いた深い洞察に満ちている。収録15本の論考の一つ「演劇と映画」(100頁近い力作)から論点を少し挙げてみよう。2500年の歴史を誇る演劇に対して、まだ生誕50年の映画は、かつて絵画に対して写真がもったような位置、つまり「複製芸術」は芸術としてワンランク下にあるのではないかと考えられていた。映画はスクリーン上の映像にすぎないが、演劇には、「生身の」俳優の身体がそこに存在するという「他に代えがたい喜びがある」(p249)、と。バザンは、こうした見方にも一理あることを認め、慎重に議論を進める。小説を演劇化することはできるが、その逆はできないから、演劇は「美学的な純化の過程における、非可逆的な最終段階にあるかのように」見える(228)。演劇は芸術の根源に近い位置にあるのだ。そして、映画と演劇の根本的な差異は「空間の経験」の仕方の違いにある。つまり、演劇は人工的な「舞台」が本質であり、「自然とは違う特権的な空間」(265)に俳優が存在し、その身体が発する「科白」がすべての意味を創り出す。

それに対して、映画は、スクリーンという「窓」から外の自然の世界を眺めるという空間経験をその本質とする。だから、映画では俳優以上に「背景」が重要になる。舞台装置だけで俳優が登場しない演劇はありえないが、自然の光景だけで人物が登場しない映画は可能である。このように、演劇空間の反自然性と、映画空間の自然性という特質を理解すれば、どちらが芸術として「上」かという議論は空しい。バザンは、戯曲を映画で表現した優れた実例として、ローレンス・オリヴィエ演出のシェイクスピア『ヘンリィ5世』、コクトー演出の映画版『恐るべき親たち』(もとはコクトーの戯曲)を挙げて、詳細に分析する。そして、17世紀以降に衰えてしまった笑劇(ファルス)やコメディア・デラルテが、チャップリン等のドタバタ喜劇映画によって「息を吹き返した」ことを挙げて、映画と演劇の肯定的な相互作用を提示する(293)。映画への愛に溢れるバザンの論考が、このように読みやすい新訳になったことを喜びたい。

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